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歴史に何を学ぶか。“天平のパンデミック”を描く歴史小説

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『火定(かじょう)』

火定澤田瞳子(さわだとうこ)さんの長編歴史時代小説、『火定』(PHP文芸文庫)をご恵贈いただきました。

秋が深まり、北国では雪の便りが届く中で、新型コロナウイルスの感染者がまた急増傾向が見られ、第三波の到来が懸念されます。

本書は、天平時代に奈良の都を中心に多くの人たちの命を奪った、天然痘(裳瘡)の大流行と、未知の病に立ち向かう者たちを描く、長編歴史時代小説です。
2017年に、第158回直木賞候補および第39回吉川英治文学新人賞候補となった作品です。

藤原氏が設立した施薬院の仕事に、嫌気が差していた若き官人・蜂田名代だったが、高熱が続いた後、突如熱が下がる不思議な病が次々と発生。それこそが、都を阿鼻叫喚の事態へと陥らせる“疫神(天然痘)”の前兆であった。我が身を顧みず、治療に当たる医師たち。しかし混乱に乗じて、お札を民に売りつける者も現われて……。第一五八回直木賞にノミネートされた、「天平のパンデミック」を舞台に人間の業を描き切った傑作長編。
(『火定』PHP文芸文庫 表紙カバー裏の紹介文より)

物語は、天平九年(737)、寧楽(奈良)に都があったころ。
主人公は、蜂田名代(はちだのなしろ)は、施薬院(せやくいん)に勤める二十一歳の下級役人です。
半年前に配属された施薬院の仕事に嫌気が差して、逃げ出したいと考えていました。

施薬院とは、京内の病人の収容・治療を行う施設で、天平二年(730)に、孤児や飢人を救済する悲田院とともに、皇后藤原光明子によって設立された公的医療機関です。

ある日、名代は、風病による高熱を発した酒家の女を往診する、施薬院で診療する医師の綱手に同行しました。

「いま、わしらが目にしている病人は、ほんの前触れに過ぎぬ。おそらくこれから京のあちこちで、患者が続々と現れるぞ。一刻も早く手を打たねば、都はまさに疫神の跳梁する地獄と化すに違いない」
 脳裏の女たちの顔はいまや、耳と言わず華と言わず、白い膿瘡で覆われ尽くしている。もはや瞼を開けることも出来ず、はあはあと喘ぐ口の中にまでびっしり疱疹を生じさせたその顔が、不意に自分の面にすり替わる。

(『火定』P.24より)

名代は、高熱が続いた後、突如熱が下がり、その後痘瘡が体に現れるという、裳瘡(天然痘)の患者に出会います。

何十年も昔に日本を襲った流行り病の再来でした。

3年前、本作品の単行本が刊行されたとき、衝撃的なパンデミックを描いたこの作品に深く感動しながらも、天然痘は現在では根絶した感染症であり、はるか昔の奈良時代のことであり、どこか遠い国の話のように思っていました。

コロナ禍という未知の出来事に遭遇したとき、人としていかに生きるべきか、その答えを求めて歴史に学ぶことは重要なことと思います。

今こそ、“天平のパンデミック”の歴史小説を読み返してみたいと思います。

火定

澤田瞳子
PHP研究所 PHP文芸文庫
2020年11月19日第1版第1刷発行

装丁:芦澤泰偉
装画:影山徹

●目次
第一章 疫神
第二章 獄囚
第三章 野火
第四章 奔流
第五章 犠牲
第六章 慈雨

解説 安部龍太郎

本文442ページ

単行本『火定』(2017年11月、PHP研究所刊)を文庫化したもの。

★単行本の紹介ページ

天平の世、平城京を襲うパンデミックと闘う人々を描く感動作
澤田瞳子(さわだとうこ)さんの時代小説、『火定(かじょう)』がPHP研究所より刊行されました。 2011年、デビュー作『孤鷹の天』で第17回中山義秀文学賞を、『満つる月の如し 仏師・定朝』で第32回新田次郎文学賞(2013年)を受賞し、『若...

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『火定』(澤田瞳子・PHP文芸文庫)

澤田瞳子|時代小説ガイド
澤田瞳子|さわだとうこ|時代小説・作家 1977年、京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、同大学院博士前期課程修了。 2010年、『孤鷹の天』でデビューし、同作で第17回中山義秀文学賞を受賞。 2013年、『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2...