『おもちゃ絵芳藤』
谷津矢車さんの長編時代小説、『おもちゃ絵芳藤』(文春文庫)を入手しました。
本書は、2018年に第七回歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞作です。
江戸を代表する浮世絵師・歌川国芳の一門からは、歌川芳虎、歌川芳艶、落合芳幾、歌川芳藤、月岡芳年、河鍋暁斎など多士済々の弟子たちが輩出されました。
国芳一門を描いた時代小説では、河治和香さんの『国芳一門浮世絵草紙』シリーズがあります。
大師匠の国芳が亡くなり、門下生が弔いに集まった。若頭格の歌川芳藤は、才能豊かな芳年や常に自信満々の芳幾、天才肌の狂斎ら弟弟子を前に複雑な心境だ。俺には才能がない。芳藤は残酷な現実に向き合いながら子供用の玩具絵を描き続ける――幕末から明治の激動期に生きた浮世絵師の矜持と執念に迫る長篇。
(本書カバー帯の紹介文より)
文久元年(1861)の春の日、何十年にもわたって江戸で筆を振るっていた大絵師の歌川国芳が亡くなったところから物語が始まります。
日本橋泉町の国芳師匠の住まい兼塾で、葬儀の準備を始める芳藤のもとに、弟弟子の芳年、芳幾(幾次郎)がやってきました。
芳藤は、二人に、国芳門下生の皆に師匠の訃報を伝えに回って、師匠の主宰していた国芳塾を引き継いでくれる人を探すことを手伝ってほしいと相談しました。
話をすべて聞いた芳年は、目頭を押さえながら頷いた。
「へえ、承知しましたよ。門下一番の孝行息子のにいさんに頼まれちまったら断れないじゃないですか。ご助力しますよ」
「へっ、これだから芳年はお人よしって言われちまうんだよ。自分から苦労をしょい込むなんて馬鹿のすることでェ。――でもよ、今の俺があるのも国芳先生のおかげだし、国芳塾にも愛着はあるし、なあ。まあ、借りを返すのは今、ってことかもしれねえわな」
なんだかんだで幾次郎も協力してくれるつもりらしい」(『おもちゃ絵芳藤』 P.15より)
芳藤は、二人の協力を得て、北枕の師匠に、「この不肖芳藤、なんとしても師匠最後の願いを叶えて見せますから」と心中で声をかけて、師匠の弟子たちの住まいを回りました。
さて、玩具絵(おもちゃ絵)とは、子供向けの絵の玩具のことです。福笑いのように切り取って遊ぶ趣向のものや、子供に人気のある稼業の人々の働く姿を描いた絵や、裁縫道具や大工道具など道具類を紙面いっぱいに配したもの、人や動物などをひらがなにはめ込んで絵文字としていろはを示した絵もあります。
子供相手の絵のために、役者絵などとは違い大売れしないうえに、子供は絵師の名前で買うこともしないので、駆け出しの絵師がやる格下の仕事と思われていました。
華がなく才能がないことを自覚している芳藤は、玩具絵を描き続けていました……。
国芳の絵も大好きですが、個性豊かな国芳門下の絵師たちの絵と小説で描かれるその人となりに強く惹かれます。
実は、本書を別々のオンライン書店に2回にわたって注文してしまいました。久しぶりにやってしまいました。
(これを避けるために新着本をブログに投稿していたとも言えるのですが、う~む)
そこまでして読みたかったのかと、自分にツッコミを入れながら、テーブルの上に入手した本を並べています。
おもちゃ絵芳藤
谷津矢車
文藝春秋 文春文庫
2020年10月10日第1刷
装画:化猫マサミ
装丁:野中深雪
●目次
一章
二章
三章
解説 岡崎琢磨
本文331ページ
単行本『おもちゃ絵芳藤』(207年4月、文藝春秋刊)を文庫化に際して加筆したもの。
■Amazon.co.jp
『おもちゃ絵芳藤』(谷津矢車・文春文庫)『国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ』(河治和香・小学館文庫)