『腐れ梅』|集英社文庫
2020年10月21日から10月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2020年10月下旬の新刊(文庫)」を掲載しました。
今回は、澤田瞳子(さわだとうこ)さんの『腐れ梅』(集英社文庫)を取り上げます。
平安期を舞台に、非業の死を遂げた菅原道真の祟りを題材とした、歴史時代小説です。
2017年、第8回山田風太郎賞の候補作に選ばれました。
(受賞作は池上永一さんの『ヒストリア』)
平安京。美貌の綾児は、色を売る似非巫女。突然、同業の阿鳥から、四十年以上前に左遷先で死んだ菅原道真の霊を祀る社を作ろうと誘われる。都の怪異を菅公の怨霊の祟りと恐れる公卿達から、寄進を得ようというのだ。半信半疑の綾児が、道真の憑座(よりまし)を務め始めると、孫を名乗る貴族が現れて……。世の中への怒りと漲る愛欲を活力として邁進する女と、都人の覇権の行方を描く圧巻のピカレスク歴史小説。
(『腐れ梅 (集英社文庫)』カバー裏の内容紹介より)
菅原道真といえば、京から太宰府に左遷された道真を主人公にした、著者のユーモア小説『泣くな道真 大宰府の詩』を想起します。
本書では、趣きをガラッと変えたピカレスク歴史小説となっています。
道真の死後40年、都では相次ぐ皇太子の死や、清涼殿に雷が落ちて、その後に帝の崩御など、凶事が重なり、道真の怨霊の仕業だと考える都人も少なくありません。
綾児(あやこ)は美貌の巫女ながら、裏で色を売って暮らしていました。ある日、同業の阿鳥(あとり)から、あやしい儲け話の誘いを持ちかけられました……。
「ピカレスク小説」(Picaresque novel)は、悪漢小説や悪者小説、ピカレスクロマンとも呼ばれています。
ウィキペディアでは、いくつかの特徴が挙げられていますが、「下層出身者で社会寄生的存在の主人公」という要素に目が留まりました。
時代小説において、ピカレスク小説といえば、池波正太郎さんの『雲霧仁左衛門』をはじめとする盗賊ものや、渡世人を主人公にした『木枯し紋次郎』なども該当するかもしれません。盗賊や侠客など時代のアウトサイダーを主人公にした作品の数々です。
本書は、平安期の巫女(を偽装して売色する似非巫女)が主人公に、菅公の祟りが噂される乱れた世相を描いていき、貴族や僧もっ変わっていくスリリングな展開、に物語から目が離せません。
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『腐れ梅』(澤田瞳子・集英社文庫)
『泣くな道真 大宰府の詩』(澤田瞳子・集英社文庫)