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女料理人さくら、江戸一不味いと評判の居酒屋で修業中

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『吉原美味草紙 懐かしのだご汁』

吉原美味草紙 懐かしのだご汁出水千春(でみずちはる)さんの文庫書き下ろし長編小説、『吉原美味草紙 懐かしのだご汁』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)をご恵贈いただきました。

本書は、吉原を舞台にした人情料理時代小説「吉原美味草紙」シリーズの第2弾です。

武家の娘・さくら(平山桜子)は、父を亡くして、料理人になることを目指して江戸にやってきました。江戸であてにしていた料亭を営んでいた伯父が亡くなっていて、ひょんなことから、吉原の妓楼・佐野槌屋の台所で下働きをすることになりました。

手作りの料理で人の心をほぐすさくらは、肝の臓の病で亡くなった佐野槌屋の楼主・長兵衛に、娘のおるいと継母のお勢以のことを頼まれた。二人の心を近づけたいさくらだが、長兵衛の弟・喜左衛門の奸計によって佐野槌屋を追い出されてしまう。行き着いたのは瓢亭という不味さで名高い居酒屋。ここで働きながら佐野槌屋に戻ることを誓うさくらは、店の亭主の正平が亡き妻の思い出のだご汁を作ろうとしていることを知り……。
(カバー裏の内容紹介より)

さくらが、佐野槌屋で働き始めて五カ月が経ちました。おせっかいで思いやりがあるところを見込まれて、楼主の長兵衛から、跡取り娘のおるいと、継母のお勢以の仲を取り持つように依頼されました。

病床の長兵衛が亡くなってひと月が経ち、女将お勢以の後見人として、長兵衛の弟喜左衛門が佐野槌屋に迎えられました。

「いいじゃねえか。俺は『弟』なんだぜ。兄貴だって怒るまいよ」
「そ、そんな……よしとくれ。でなきゃ……」
「人を呼ぶってかい。部屋に入れたのはおめえのほうじゃねえか」
「急ぎでおまけに内密の話があるから、と言ったものだから……」
「死んだ者に操を立てたってしょうがねえだろうがよ。兄貴が寝付いてこのかた、ずっと無沙汰で、なんのかんの言ったって、体はうずいて仕方ねえだろう、ええ?」

(『吉原美味草紙 懐かしのだご汁』P.31より)

夜中に台所で出汁の仕込みをして部屋に戻るさくらは、お勢以の居間からの男女の声に気づきました。
(喜左衛門さんが夜這いをしかけたんとちゃうやろか。女将さんを助けなあかん)
武芸の心得がある、さくらの中に棲まうおせっかいの虫が騒ぎ始めます。

邪魔をしたさくらは、喜左衛門の奸計によって、佐野槌屋を追い出されてしまいました。そして、先輩料理人の竜次が見つけてきた新しい奉公先は、同じ吉原の裏路地にある、江戸一不味いという居酒屋・瓢亭(ふくべてい)でした。

温かな人情と心を込めた料理で、人の心をつなげていくさくらは、持ち前のおせっかいで、新たな試練を乗り越えられるでしょうか。

中島梨絵さんの表紙装画にもそそられます。
『おせっかいの長芋きんとん』で描かれた佐野槌屋の厨房と違っているので、瓢亭の厨房でしょうか。
笑いあり、涙ありの、大坂風の味付けが癖になる、人情料理小説をいただきます!

吉原美味草紙 懐かしのだご汁

著者:出水千春
ハヤカワ時代ミステリ文庫
2020年10月15日発行

カバーイラスト:中島梨絵
カバーデザイン:大原由衣

●目次
第一話 あつあつのけんぴん
第二話 正平のだご汁
第三話 振袖小僧と母のだご汁
第四話 母の味、小禽雑炊

本文293ページ

文庫書き下ろし作品。

■Amazon.co.jp
『吉原美味草紙 おせっかいの長芋きんとん』(出水千春・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1作)
『吉原美味草紙 懐かしのだご汁』(出水千春・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2作)

出水千春|時代小説ガイド
出水千春|でみずちはる|作家 大阪府茨木市生まれ。大阪大学法学部卒業。 漫画家デビュー後、小説を書き始め、『吉原美味草紙 おせっかいの長芋きんとん』で時代小説デビュー。 次女は油彩画家の出水翼。 ■時代小説SHOW 投稿記事 ■著者のホーム...