『お助け裏同心 重蔵組』
山田剛(やまだたけし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『お助け裏同心 重蔵組』(コスミック・時代文庫)をご恵贈いただきました。
「無双の拝領剣」や「新地奉行 太田太田太」などの文庫書き下ろし時代小説シリーズで活躍されている、著者の新シリーズが始まりました。
本書の主人公、五十坂重蔵(いそさかじゅうぞう)は、五十二歳、
北町奉行所で定町廻り同心をつとめた後、例繰方に転じて、三年前に惣領の官兵衛を跡番代として隠居しました。
例繰方は、町奉行が裁きを言い渡すに際し、犯罪の罪因や情状、量刑などを、先例に照らした書類を作成して、事前に奉行に提出するお役目です。
だれが呼び始めたか、「重蔵組」――。芝居小屋・河原崎座の奈落の底に仲間を招集したのは、腕利きの元北町奉行所同心・五十坂重蔵であった。若い頃は定町廻りとして悪党どもを引っ捕らえ、例繰方に転属後は、頭の切れを活かして数多の未解決事件を処理している。そんな重蔵も、惣領の官兵衛を跡番代として隠居していたが、その人柄と功績を見込んで、事件の相談や陳情に訪れる人々が後を絶たなかった。
そこで重蔵は、人の苦しみ、悲しみを分かち、心を癒すため、いわば私設の奉行所を結成。信頼たる面々――元密偵の富五郎、髪結いのお紺、蘭方医の新船隼人とともに、一度は解決した事件に挑むのだった。一厘の疑念を晴らすべく、今日も鋭い洞察力でその全貌を明らかにする!
(本書カバー帯の紹介文より)
隠居を機に、愛妻の結衣と神田松枝町の閑居に暮らし始めた重蔵。
街歩きを道楽に、時折遊びに来る、愛孫・桃を溺愛する、日々を送っています。
そんなある日、定町廻り同心の春木三十郎が使っている、岡っ引きの三次から、十枚以上ある浅草紙の束を受け取りました。
その一番したの紙を見ると、気になる文字が目に飛び込んできました。
嘘つき官兵衛
とあったのだ。
さらに、二枚目、三枚目を見ても、「死ね、官兵衛」「逃げるな官兵衛」というように、官兵衛を詰る言葉ばかりが書き殴られていた。
どの紙にも差出人の名前はないが、拙い女文字と見え、女の仕業と思われる。(『お助け裏同心 重蔵組』 P.14より)
重蔵は官兵衛の名を見て、胸がチクリと痛みました。
官兵衛は、一年半前に亡くなっていました。
その年に江戸中で蔓延して猛威を振るった流行り風邪に罹り、あっという間に息を引き取りました。出仕が決まってから娶った妻・久美と、ふた月前に生まれたばかりの一粒種の桃を残してこの世を去ったのです。
重蔵は、次の日、夜が明ける前に北町奉行所の表門が見える場所に潜んで、表門の隙間に紙を差し込んだ女を呼び止めました。
女は「花が、今年も咲いちまったじゃないか」という謎の言葉を残して立ち去りました。
女がなぜ官兵衛を詰り、責めるのか、女と官兵衛はいったいどういう間柄なのか、重蔵は調べ始めます。
芝居小屋の奈落の底に、芝居小屋で下働きをする元密偵の富五郎、蘭方医の新船隼人、髪結いのお紺を集めて、亡くなった官兵衛に代わり、女のかかわった事件の真相を明らかにして、「官兵衛の遺言」を果たそうとします。
「何人も逃げ得は許さねぇ」と、重蔵を頭に集まった四人の「重蔵組」は、奉行所が一度は解決した事件で、一厘の疑念を晴らすべく、人々を苦しみから救うために働きます。
新型コロナウイルスによるパンデミックが起こり、社会構造と価値観が大きく変わろうとする時代だからこそ、民の声を聞いたり、真実を明らかにしたり、助け合い、困っている人に手を差し伸べるという、そんな物語が心に沁みます。
お助け裏同心 重蔵組
山田剛
コスミック出版・コスミック・時代文庫
2020年10月25日初版発行
カバーイラスト:チユキクレア
●目次
第一話 官兵衛の遺言
第二話 遠眼鏡の女
第三話 二十年目の挑戦状
本文277ページ
文庫書き下ろし
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『お助け裏同心 重蔵組』(山田剛・コスミック・時代文庫)
『無双の拝領剣―巡見使新九郎』(山田剛・コスミック・時代文庫)
『新地奉行 太田太田太』(山田剛・コスミック・時代文庫)