『泣き娘』
小島環(こじまたまき)さんの中国歴史小説、『泣き娘』(集英社)をご恵贈いただきました。
単行本の新刊リストを作成したときから、気になっていた作品です。
千葉ともこさんの『震雷の人』を読み終えたところで、中国・唐の時代にますます興味が湧いてきました。
本書で描かれている時代は、中国・延載元年(694)六月で、武則天(ぶそくてん)という女帝が治めていた時代です。武則天は、唐の高宗の皇后となり政治の実権を握った後、自ら帝位に就き、中国史上唯一の女帝となりました。則天武后とも呼ばれます。
玄宗は、武則天の孫にあたり、『震雷の人』は少し後の時代となります。
著者は、2014年、『三皇の琴、天地を鳴動さす』(単行本刊行時に『小旋風の夢絃』に改題)で、第9回小説現代長編新人賞を受賞して、メジャーデビューしました。
本書は、2015年から2020年にかけて、「小説すばる」誌に不連続で掲載された、連作短編5編を収録しています。
第1作の「泣き娘」(本書では「胡服麗人」に改題)は、前年に発表された短編の中から、特に優れたものを精選した、日本文藝家協会編の『時代小説 ザ・ベスト2016』に、収録されました。
哭女、それはひとの葬儀で嘆くことを生業とする女性のこと。
女帝・武則天の世、神都随一と名高い哭女の“泪飛”は、幼くして両親を亡くしたのち、妹弟を養うため性を偽り夢もあきらめ、懸命に働いていた。
ある日、親友の死を知って以来、異装を貫き続ける貴族・青蘭と出会い――。
(本書カバー帯の紹介文より)
十三歳の燕飛は、両親の死をきっかけに、弟妹を養うために、性別を偽り「泪飛(るいひ)」と名乗って、哭女(こくじょ)として仕事をしていました。
姿の可憐さばかりでなく、どこでで泣ける特技と遺族の心に寄り添う慟哭で、泪飛はこの国一番の哭女となりました。
ある富商の葬列に哭女として呼ばれた燕飛は、葬儀にはふさわしくない珍妙で華美な胡服をまとった異装の若者、青蘭と出会いました。
「話ならぬな。お主に関わっていると、私までがおかしな目で見られてしまう。泪飛を貸してやるから、いますぐに帰ってくれ」
「えっ、どうしてわたくしが! わたくしは、お父上のために、泣かねばならぬのではありませんか?」
突然のことに、燕飛は驚きの声をあげた。
「まもなく棺を埋める。少し早いが、哭女の役目は終わりだ。そなたは張良の葬儀に参列していたであろう。棺によりそい、切々と泣いておったな」(『泣き娘』 P.16より)
青蘭は青年貴族で、賢臣・狄仁傑(てきじんけつ)の部下として官吏をしていましたが、親友を戦いで失って以来、職を辞して異装を続けていました。
燕飛と青蘭の二人は、連作形式で、葬儀で出会った不審な死を遂げた人たちの死の真相を解き明かしていきます。
清新な歴史青春ミステリーを楽しみたいと思います。
泣き娘
小島環
集英社
2020年10月10日第1刷発行
装丁:坂野公一+吉田友美(Welle design)
装画:アオジマイコ
●目次
胡服麗人
鴛鴦の契
閻羅王
両頭蛇
探花宴
終章
本文260ページ
初出:「胡服麗人」(「泣き娘」を改題)「小説すばる」2015年7月号、「鴛鴦の契」「小説すばる」2016年4月号、「閻羅王」「小説すばる」2018年2月号、「両頭蛇」「小説すばる」2019年2月号、「探花宴」「小説すばる」2020年2月号、「終章」書き下ろし。
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『泣き娘』(小島環・集英社)
『小旋風の夢絃』(小島環・講談社文庫)
『時代小説 ザ・ベスト2016』(日本文藝家協会編・集英社文庫)
『震雷の人』(千葉ともこ・文藝春秋)