『画鬼と娘 明治絵師素描』
池寒魚(いけかんぎょ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『画鬼と娘 明治絵師素描』(集英社文庫)を入手しました。
著者は、幕末から明治を舞台にした、痛快時代エンターテインメント小説『隠密絵師事件帖』でデビューしました。
『ひとだま』『赤心』『いきづまり』と続編を含む4作の主人公の隠密絵師・司誠之進の絵の師匠が河鍋暁斎(かわなべきょうさい)という設定となっていて、シリーズを通して、暁斎が重要な役割を演じていました。
表紙装画も暁斎の絵が使われています。
幕末史を新しい切り口で描いた「隠密絵師事件帖」シリーズから、本作では絵師自身と明治という時代を描くことにテーマが移っています。
日本のアートシーンが大きく変化した明治期に活躍した三組の画家の親子の物語。巨匠河鍋暁斎とその画業を継いだ娘、暁翠(画鬼と娘)。早熟の天才、五姓田義松の苦悩と見守り父芳柳。洋画の技術と画材の研究に尽力した高橋由一と息子の源吉。世の中や市場の変化に翻弄されながら彼らが貫いた画業と、達した境地に迫らんとする歴史連作小説。美術鑑賞への意欲を喚起する、興奮に満ちた一冊。
(本書カバー裏の紹介文より)
本作は、明治に活躍した、河鍋暁斎とその娘・暁翠(きょうすい)、五姓田芳柳(ごせだほうりゅう)と義松(よしまつ)、高橋由一(ゆいち)と源吉の三組の画家(絵師)の親子が描かれていく連作小説です。
「父の名は河鍋暁斎といいます」
とよがそう告げたとたん、いきなり人の家にやって来て、傲岸不遜に構えていた男の顔つきが一変、どちらかといえば怜悧な光をたたえていた切れ長の目がみるみるうちに見開かれ、まん丸になった。三十をいくつか過ぎているのだろう。落ちつき払った顔貌が少年のようになる。
はからずもとよは胸のうちにつぶやいた。
あら、あどけない……。(『画鬼と娘 明治絵師素描』 P.12より)
明治二十二年(1889)四月二十六日の昼下がり、河鍋暁斎が亡くなった日に、暁斎のもとを絵師の五姓田義松が訪れところから、物語が始まります。
河鍋暁斎の娘・とよ(暁翠)は、河治和香さんの『がいなもん 松浦武四郎一代』で描かれて以来、気になる女性絵師の一人でした。
絵について門外漢で、五姓田芳柳・義松、高橋由一・源吉には、どんな作品があるのか知りませんでした。
本書で三組の絵師親子の物語を楽しむとともに、明治時代のアートシーンの勉強もしたいと思います。
画鬼と娘 明治絵師素描
池寒魚
集英社 集英社文庫
2020年9月25日第1刷
文庫書き下ろし作品。
カバーデザイン:高橋健二(テラエンジン)
装画:『能 石橋』(部分)河鍋暁翠画 河鍋暁斎記念美術館蔵
●目次
序
第一話 画鬼と娘
第二話 神童
第三話 キセキの一枚
第四話 絵師の真髄
跋
解説 浦上満
本文317ページ
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『画鬼と娘 明治絵師素描』(池寒魚・集英社文庫)
『隠密絵師事件帖』(池寒魚・集英社文庫)
『がいなもん 松浦武四郎一代』(河治和香・小学館)