『震雷の人(しんらいのひと)』
本年度(2020年)、第27回松本清張賞受賞作、千葉ともこさんの長編歴史小説、『震雷の人(しんらいのひと)』(文藝春秋)を入手しました。
松本清張賞は、時代小説作品の受賞が多くて、毎回、注目してる賞の一つです。同賞受賞者からは、葉室麟さんや山本兼一さん、青山文平さん、川越宗一さん……、後の直木賞作家も輩出しています。
「書の力で世を動かしたい」。文官を目指しながら、信念を曲げず敵陣の刃に倒れた青年・顔希明。彼の許婚の采春は、興行一座に身を隠し、得意の武術を磨きながら、希明の仇討ちを計った。一方、采春の兄・張永は、希明の遺志を継ぎ、新皇帝のいる霊武へ向かう。一度は袂を分けた兄妹の運命が交差するとき、唐の歴史が動き始める――。
(本書カバー帯の紹介文より)
本書では、中国唐の玄宗皇帝に重用される将軍・安禄山によって引き起こされた叛乱(安史の乱とか安禄山の乱とか呼ばれます)によって、運命を大きく変えた3人の男女が描かれています。
顔希明は、常山郡太守の息子で、文官を目指す十六歳の青年。
張永は、平原軍の第一大隊の隊長で、希明の親友。
采春は、希明の許婚で張永の妹で、武術の達人。
三人が城を離れている間に、安将軍の息子の安慶緒が率いる父子軍が突然、平原を襲い、第一大隊の兵士の多くが負傷しました。
「誰だ、お前は」
「私は、顔希明と申します。父は常山郡太守の顔杲卿。ここ平原の太守顔真卿の甥に当たります」
「ただの書生か。文弱は下がっていろ」
「確かに、私は文官を目指す一書生に過ぎませぬ。しかし、書の一字を侮るなかれ。一字、震雷の如しといいます。刀でも弓でもない。人の書いた一字、発した一言が、人を動かし、世を動かすのです」(『震雷の人』 P.19より)
「血で汚さねば、世を動かせぬ」と言って、血で濡れた長刀を手にしている安慶緒に希明は凛と対峙しました。
当代随一の書家顔真卿をおじにもつ、能書家一族の出身らしい、希明の言葉にワクワクさせられ、物語の世界へと誘われていきます。
震雷の人
千葉ともこ
文藝春秋
2020年9月20日第1刷発行
装画:王浣
装丁:野中深雪
●目次
第一章 烽火立つ
第二章 永字八法
第三章 辟召の契り
第四章 雲霄の奥
第五章 僧侠、現る
第六章 密約、成る
第七章 魏都、攻略
第八章 胞衣壺眠りて
第九章 不孝に非ず
第十章 大義、親を滅す
第十一章 希望の風
第十二章 震雷の人
本文314ページ
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『震雷の人』(千葉ともこ・文藝春秋)