『おれは一万石 商武の絆』
千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石 商武の絆』(双葉文庫)を入手しました。
本書は、一石でも禄高が減れば旗本に格下げになる、ギリギリの一万石の大名、下総高岡藩井上家に婿入りをした、美濃今尾藩竹腰家の次男、正紀の奮闘を描く文庫書き下ろし時代小説「おれは一万石」シリーズの最新刊です。
松平定信が発布した棄捐の令に歓喜の声を上げる旗本、御家人だったが、その喜びも長くは続かなかった。大損害を被った札差をはじめ、商人が武士に対する貸し渋りをはじめたのだった。高岡河岸に新たな納屋を建てるべく金を借りた正紀だったが――。好評・書き下ろし時代小説、第14弾!
(本書カバー裏の紹介文より)
老中首座・松平定信の寛政の改革というと、札差に対して、旗本・御家人の借金の債権放棄と債務繰延べにした「棄捐令」が知られています。
定信の治世と重なる時代背景をもつ本シリーズで、いよいよ「棄捐令(きえんれい)」が描かれます。
「定信殿がなす新施策の内容が、明らかになった」
一同が頭を上げたところで、宗睦が口を開いた。「やはり」といった顔で、すべての者が次の言葉を待った。
「旗本御家人を救済する、棄捐の令であるのは間違いないが、その中身は札差にとって過酷なものとなった。すなわち五年以上前までの貸付金は、新古お区別なくすべて帳消しにする。以降の分は利息をこれまでの三分の一に下げ、永年賦を申し付けるというものである」
「おおっ」
驚愕の声が上がった。禄米取りの直参は、長い年月にわたって、札差から禄米を担保に借金を続けてきた。それを棒引きにするという触である。(『おれは一万石 商武の絆』 P.28より)
借金をチャラにする棄捐令に、多額の借金を抱えた旗本・御家人たちが歓喜の声を上げるのは容易に想像ができます。しかし、大損害を受けた札差も黙っておらず、武家への貸し渋りが起こりました。
前作『訣別の旗幟』で描かれたように、尊号事件を契機に定信政権と訣別し、その施策を支持しないと決めた徳川宗睦が率いる尾張徳川家一門。
そして一門に属する高岡藩井上家は、棄捐令によりどのような影響を受けるのか。世子正紀はまたしても金策に奔走することになるのか。物語の行方が気になります。
棄捐令を描いた時代小説では、山本一力さんの『損料屋喜八郎始末控え』もおすすめです。
改革を進める
おれは一万石 商武の絆
千野隆司
双葉社 双葉文庫
2020年8月10日第1刷発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:重原隆
カバーイラストレーション:松山ゆう
●目次
前章
第一章 新施策
第二章 叢の笄
第三章 面通し
第四章 暴れ川
第五章 心掛け
本文283ページ
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『おれは一万石 商武の絆』(千野隆司・双葉文庫)
『おれは一万石 訣別の旗幟』(千野隆司・双葉文庫)
『損料屋喜八郎始末控え』(山本一力・文春文庫)