『幻庵 上』
百田尚樹(ひゃくたなおき)さんの長編歴史時代小説、『幻庵 上』(文春文庫)を入手しました。
本書は、上中下の三分冊で構成される、長編囲碁時代小説です。
江戸後期に活躍し、囲碁史にその名を残す、井上幻庵因碩(いのうえげんなんいんせき)の波瀾に満ちた生涯と、彼の好敵手たちとの対局を描いています。
幕末前夜、囲碁に果てしない大望を抱いた男がいた。「古今無双の名人になる」――この男、服部立徹、幼名・吉之助こそ、後に「幻庵」と呼ばれ、囲碁史にその名を燦然と輝かせる風雲児だった。鎬を削るは、本因坊家の丈和、安井家の知達ら、囲碁の天才たちによる触れれば血が噴き出るような熱き激闘、その歴史の幕が上がる!
(本書カバー裏の紹介文より)
文化元年(1804)九月、「鬼因徹(おにいんてつ)」と呼ばれ、家元の碁打ちさえも凌ぐといわれる碁界の強豪・服部因淑(はっとりいんしゅく)は、三人の童子を相手に同時に対局をしました。
――数十手後、盤面の黒石はほとんど死んだ。
前かがみになった童子の動きが止まった。碁笥に入れた右手が石を持ったまま動かない。肩が小さく震えている。顔は盤面に覆いかぶさったままだ。
やがて、榧の碁盤の上にひとしずくの涙が滲んだ。最初はぽつりぽつりと垂れていたが、まもなく大粒の涙がぽたぽたと落ちた。そして童子は声を上げて泣いた。(『幻庵 上』 P.25より)
因淑はまず七歳くらいで最も幼いを童子を中押しで破りました。圧倒的な差がついて負けを認めた男の子は、負けて大泣きをしました。
ところが、因淑は置石のアドバンテージをうまく利用して対局に勝った、ほかの二人の童子ではなく、最初に負けて泣いた男の子、吉之助(後の幻庵因碩)を内弟子にすると言いました。
藤井聡太棋聖が少年時代に、谷川浩司九段と将棋イベントで対局して、敗色濃厚な展開を「引き分けにしよう」と提案されて、将棋盤を抱えて大声で泣いたというエピソードを思い出しました。
私は石の並べ方もわからない囲碁の門外漢ですが、「名人碁所」を目指して激突する囲碁棋士たちの闘いにワクワクします。
幻庵 上
百田尚樹
文藝春秋 文春文庫
2020年8月10日第1刷発行
単行本『幻庵』上下巻(2016年12月、文藝春秋刊)を文庫化に当たって、三分冊にしたもの。
イラスト:ヤマモトマサアキ
デザイン:関口聖司
●目次
プロローグ
第一章 鬼因徹
第二章 仙人の碁
第三章 天才少年
おもな囲碁用語
本文397ページ
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『幻庵 上』(百田尚樹・文春文庫)
『幻庵 中』(百田尚樹・文春文庫)
『幻庵 下』(百田尚樹・文春文庫)