『悪魔道人 影がゆく2』
稲葉博一さんの文庫書き下ろし時代小説、『悪魔道人 影がゆく2』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を献本いただきました。
第1作『影がゆく』は、武士と伊賀甲賀忍者の精鋭が、浅井家の遺児・月姫を護り、越後へ向かう決死の逃亡行を描いた、超弩級の冒険時代小説です。
はじめのうちは文体にとっつきにくい感じがしましたが、次第に物語の世界に入り込めて、次々と襲い掛かる凄敵にハラハラドキドキし、忍者たちの人間離れした戦いの虜になりました。
本書は、忍者冒険小説の待望の第2弾です。武田信玄亡き、甲斐国に潜入する、伊賀忍者の新たな戦いにワクワクしています。
浅井の遺児・幼気な姫の命を救った少年忍者・犬丸と美貌の忍者・弁天の冒険は終わった。が、伊賀では新たな冒険の幕、非情な死闘の幕があがっていた……すでに滅びし武田信玄、だが甲斐国では不穏な動きが。潜入した伊賀者八人が消え、斬り取られた指が残されたのだ。仇討ちの命を受けた好々爺の源三、齢六十一。が、この男、術を極めた伝説の老忍であった。正体不明の殺戮者〈鵼(ぬえ)〉を狩るべく、ひとり死地へと歩を進めん!
(本書カバー裏の紹介文より)
前作が浅井家が滅亡した天正元年(1573)八月からの出来事が描かれたのに対して、本書は同じ天正元年十二月から始まります。
三河岡崎の伊賀八幡宮で、服部半蔵正成が留守の間、服部党を取りまとめている老忍・禅四郎のもとに、甲斐国に潜伏していた下忍により、凶報とともに切り取られた八本の指がもたらされました。
その指は、甲斐に潜入していた八人の服部党の忍びから切り取られたもので、禅四郎より、老忍・音羽ノ源三に、甲斐にて仇を見つけて討つように命じられました。
源三は老忍ながらも、伊賀流柘植派の忍びに長じた名人で、山岳修験にもあかるく、不吉な呪術や不思議な術法を操る悪魔の法を取得していました。
源三、六十一歳――。
外貌は、じつに好々爺の印象だ。とても、天狗の化身とは見えなかった。背の低い小男で、額がせまい。白髪まじりの頭の毛は、猫の毛ていどにみじかく刈り込まれている。目じりにしわが深く、ひげにはいつも剃刀をあてているために、見た目にも清潔で感じがいい。悪魔めいたところなど、どこひとつとして見あたらず、こじつけるとすればその身にまとう着物くらいであろうか。
血の赤いろをした糸で縫いあげた、闇のような黒い十徳を着ている……(後略)。
(『悪魔道人 影がゆく2』P.49より)
さて、今回も魅力的な忍びたちが敵味方に分かれて登場し、忍びの技を繰り出し、壮絶な闘いを繰り広げます。前作からの読者にとっては、忍者の少年・犬丸と美貌の忍者・新堂ノ弁才天が本書でも活躍するのが楽しみの一つです。
悪魔道人 影がゆく2
稲葉博一
早川書房 ハヤカワ時代ミステリ文庫
2020年8月15日発行
文庫書き下ろし
カバーイラスト:影山徹
カバーデザイン:k2
●目次
序幕 瞋ノ火
一幕 西三河
二幕 甲斐国
三幕 信濃国
四幕 対決
本文467ページ
■Amazon.co.jp
『影がゆく』(稲葉博一・ハヤカワ時代ミステリ文庫)
『悪魔道人 影がゆく2』(稲葉博一・ハヤカワ時代ミステリ文庫)