『女の厄払い 千住のおひろ花便り』
稲田和浩さんの人情時代小説、『女の厄払い 千住のおひろ花便り』(祥伝社文庫)を入手しました。
千住の飯盛旅籠・伊勢屋の遣り手・おひろを主人公にした、人情時代小説『そんな夢をあともう少し』に続く、「千住のおひろ花便り」の第2作です。
おひろは、遊女たちの世話をしたり、客の取り次ぎをしたりする女奉公人です。
遊女屋(遊郭や岡場所、飯盛旅籠など)の遣り手というと、遊女の生き血を啜るような、因業で血も涙もないというイメージがありますが、遊女出身ということもあって、親身になって遊女たちの夢を応援する味方となっています。
殿様の敵娼を務めたためにとんでもない目にあった伊勢屋の女郎おなか。殿様を連れてきた幇間久八は、その償いにと、おなかの客になる。やがて、たがいに憎からず想うようになった二人だが、久八の身に異変が起きて……。(「花見の幇間」より) 色街でもつれ合う男と女。儚い夢を追うものたちの背中をそっと押す、千住、飯盛旅籠の遣り手・おひろの物語。
(本書カバー裏の紹介文より)
本書は、「安政二年神無月二日」と題した話から始まります。
この日付で、ピンとくる方は、相当な歴史通だと思います。
安政二年(1855)十月月二日の夜十時ごろ、関東地方南部を直下型の大地震が襲いました。江戸市中で一万五千戸近くの家屋が倒壊し、四千人以上が亡くなりました。後に、安政の大地震(安政江戸地震)と呼ばれた大震災です。
大名屋敷も倒壊し、小石川の水戸屋敷では、学者の藤田東湖が建物の下敷きになり圧死しました。このエピソードは、手塚治虫さんの『陽だまりの樹』を読んで知りました。
「おひろさん、大丈夫だったかい」
「はい。長屋の皆さんもけが人はいません」
「そうかい、。で、長屋の皆は?」
「揺り返しや火事の心配もありますんで、最小限の身のまわりの物を持って、皆さん、日勝寺に行っています」(『女の厄払い 千住のおひろ花便り』P.15より)
遣り手を辞めて、茅場町の長屋で駄菓子屋を始めたおひろは、地震後に長屋の住人たちの避難を差配しました。そして、長屋の大家である佐兵衛に、火事場泥棒に気を付けるように進言しました。
おひろのおかげで、四、五日は長屋の者たちが腹を減らさずにすみそうだ。
それにしても、おひろという女、なんだってこんなに気がまわるんだろう。一体何をやっていた女だ。(『女の厄払い 千住のおひろ花便り』P.19より)
佐兵衛と同じように、読者のおひろに対する関心が高まっていき、「初午」を始めとした飯盛旅籠での遣り手時代の物語に興味が向きました。
女の厄払い 千住のおひろ花便り
稲田和浩
祥伝社 祥伝社文庫
2019年11月20日初版第1刷発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:かとうみつひこ
カバーイラスト:丹地陽子
●目次
安政二年神無月二日
初午
花見の幇間
鯉のぼり
茄子娘
焼き芋
厄払い
本文384ページ
■Amazon.co.jp
『そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り』(稲田和浩・祥伝社文庫)(第1作)
『女の厄払い 千住のおひろ花便り』(稲田和浩・祥伝社文庫)(第2作)
『陽だまりの樹(1)』(手塚治虫・小学館文庫)