『家康(一) 信長との同盟』
安部龍太郎さんの長編歴史時代小説、『家康(一) 信長との同盟』(幻冬舎時代小説文庫)を入手しました。
徳川家康を描く大河歴史小説の第1巻です。2020年7月より、毎月1巻ずつ6カ月連続で刊行される予定ということで、ファンとしては何とも楽しみです。
桶狭間の敗戦を機に、松平元康(後の家康)は葛藤の末、信長と同盟を結ぶ。先見性と経済力を武器にのし上がる天才を目の当たりにし、単なる領地争いの時代が終わったことを身をもって知る元康。三河一国を領し、欣求浄土の理想を掲げ、平安の世を目指す。信長でも秀吉でもなく、なぜ家康が戦国最後の覇者となれたのか。かつてない大河歴史小説。
(本書カバー裏紹介より)
永禄三年(1560)五月。尾張の織田信長との戦いを目前に控えた、駿河、遠江、三河の太守である今川義元より、十九歳の松平元康(後の徳川家康)は、三河衆一千余をひきいて先陣をつとめ、大高城に兵糧を入れて、尾張への侵攻にそなえよと命を受けました。
駿府で人質のような暮らしを強いられて十二年、華々しい手柄を立て、岡崎城に帰還することを認めてもらう、独立の機会がめぐってきました。
「万一とはどういうことです。太守さまが織田に負けるとでもお思いですか」
瀬名が言葉尻をとらえて言いつのった。
「そんなことは申しておらぬ。出陣中は何が起ころか分からぬゆえ、用心に用心を重ねなければならぬという意味だ」
「ここは駿府です。今川家の都ですよ。織田ごときとの戦で、危ないことが起こるはずがないではありませんか」
「そなたは信長どのを知っているか」
元康は腹にすえかねて反撃に出た。(『家康(一) 信長との同盟』P.17より)
出陣を前に元康は、三年前に娶った義元の姪で妻の瀬名の方(後の築山殿)と言い争いをしてしまいました。屋敷で留守を守るように命じる元康に対して、瀬名は、二人目の出産が迫った実家に帰って出産したいと。
母・於大の方の兄で、知多半島北部に勢力を張る水野信元を身方に引き入れるように、元康は義元から調略を命じられていました。
気が強くて、義元の姪であるという矜持がある瀬名に言いたいことが言えず、老練な伯父に翻弄される、十九歳の等身大の若者として、元康はこの物語に登場します。
いかにして戦国の乱世を生き抜き、人間として成長していくか、興味が尽きないシリーズの始まりです。
著者の安部龍太郎さんというと、『信長燃ゆ』や『蒼き信長』などの作品から、戦国の三英傑では、織田信長を題材に選ぶことが多い印象がありました。
戦国最後の英傑、徳川家康という人物に、正攻法でガッツリと取り組む、本シリーズは、歴史時代小説においてエポックメーキングな作品となることと思います。
家康(一) 信長との同盟
安部龍太郎
幻冬舎 幻冬舎時代小説文庫
2020年7月10日初版発行
単行本『家康(一) 自立篇』(2016年12月、幻冬舎刊)を二分冊し、副題を変えて文庫化したもの
カバーデザイン:芦澤泰偉事務所
題字:石飛博光
●目次
第一章 出陣
第二章 桶狭間
第三章 大樹寺
第四章 清洲同盟
第五章 築山殿
第六章 信康の婚礼
解説 澤田瞳子
本文318ージ
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『家康(一) 信長との同盟』(安部龍太郎・幻冬舎時代小説文庫)