『悪霊じいちゃん風雲録』
輪渡颯介(わたりそうすけ)さんのユーモア時代小説、『悪霊じいちゃん風雲録』(早川書房)を献本いただきました。
著者は、2008年に『掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南』で、第38回メフィスト賞を受賞し、作家デビューされました。
メフィスト賞は、文芸雑誌『メフィスト』から生まれた公募文学新人賞で、ミステリー、ファンタジー、SF、伝奇などエンターテイメント作品を対象ジャンルとしておりますが、時代小説での大賞受賞は、まれなようです。
「浪人左門あやかし指南」シリーズ(全4作)のほかにも、「古道具屋 皆塵堂」や「溝猫長屋 祠之怪」などの時代小説シリーズを発表されています。
商家の跡取り伊勢次は、二十歳を超えても怖がりなのに――
祖父の左五平が幽霊として甦った!
孫の怖がる顔が可愛いようで、まいど趣向をこらして怖がらせる。
ある日、町の幽霊騒動を知った左五平が、伊勢次に正体を調べるように言いつけ……貧乏御家人の七男・文七郎が剣で成敗したい幽霊とは――
祖父・十右衛門だ! が、文七郎は十右衛門に稽古もどきで打ちのめされる。
町の幽霊騒動を聞きつけた十右衛門も、
(本書カバー裏紹介より)
日本橋本石町にある薬種問屋伊勢屋の跡取り・伊勢次は、祖父母に甘やかされて育てられて、店の仕事もほとんど教えられず中途半端で、肝の据わっていない、無類の怖がりでもあります。
目下の悩みは、昨年亡くなった祖父の左五平(さごへい)の存在です。
「何度出てきても、お前は変わらずに怖がってくれる。せっかくだからと思って、儂もいろいろと出方を工夫しているんだ」
「迷惑だよ」
今朝はとりわけ酷かった。枕元に立っていた左五平は、伊勢次と目が合うと口から血を吐いたのだ。気づくとその血は跡形もなく消えていたから、これも左五平の言う、出方の工夫というやつなのだろう。
「迷惑って、お前……可愛い孫を楽しませてやろうとして祖父の思いを……」
「じいちゃん……おいらもう二十歳を超えているんだよ。この伊勢屋の跡継ぎで、周りから若旦那と呼ばれる身なんだ」(『悪霊じいちゃん風雲録』P.9より)
その左五平は、幽霊となって出てくると、店の仕事を覚えようとしている伊勢次にどうでもいい用事をやたらに言い付けます。
今回も、左五平の知り合いの音羽の酒屋相州屋に出るという怪異を確かめて、幽霊なら二度と出ないようにしてと言い付けられました。
一方、牛込の御家人の倅・武井文七郎も、三年前に亡くなった祖父の十右衛門が幽霊となって現れて、悩ませていました。
その日も、評判のいい祈禱師から買った、悪霊除けの御札を刀にペタペタ貼って、十右衛門と対決しました。
「なかなか効き目のありそうな御札だ。悪霊除けか。どうやら丸っきり偽者の祈禱師というわけではなさそうだな」
「だったら、じじぃが斬れるはずだ」
「貴様、己の祖父を悪霊呼ばわりするか」
「生きている時から俺に酷い仕打ちばかりして、やっとくたばったと思ったのにまだ続けやがる。どう考えても立派な悪霊じゃねぇか」(『悪霊じいちゃん風雲録』P.51より)
十右衛門は、生前から仲の悪かった左五平に対抗して、文七郎に、日本橋鉄砲町にある菓子屋・筑波屋に出るという幽霊退治を命じました……。
怪異現象が次々に起こり、幽霊騒動が繰り広げられる中で、悪霊じいちゃんに言い付けられて、町人と武家という立場を超えてバディ(相棒)となった伊勢次と文七郎による幽霊退治、ニヤリと笑えるユーモア怪異時代小説です。
江戸の珍妙なゴーストバスターズの活躍で、いかなる顛末を迎えるか大いに気になります。
悪霊じいちゃん風雲録
輪渡颯介
早川書房
2020年7月25日発行
書き下ろし
単行本(ソフトカバー)
装画:三木謙次
装幀:早川書房デザイン室
●目次
相州屋の幽霊
筑波屋の幽霊
小料理屋芳松の夜
再び相州屋の幽霊
離れに棲むもの
料亭小梅の夜
待ち伏せ
本文253ページ
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『悪霊じいちゃん風雲録』(輪渡颯介・早川書房)
『掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南』Kindle版(輪渡颯介・講談社文庫)