『むじな屋語蔵 世迷い蝶次』
三好昌子さんの文庫書き下ろし時代小説、『むじな屋語蔵 世迷い蝶次(むじやなかたりぐら よまよいちょうじ)』(祥伝社文庫)を入手しました。
著者は、2016年、第15回「このミステリーがすごい!」大賞・優秀賞を受賞し、翌2017年、『京の縁結び 縁見屋の娘』でデビューしました。
その後も、人をつなぐ不思議な縁、心にある闇、誰にも言えない秘密を題材として、鮮やかに解き明かしていく時代小説を次々と生み出し、注目の時代小説家の一人です。
京都西町奉行所同心の手先の蝶次は、高瀬川の辺で美女と遭う。「女の訪れた家には死人が出る」閻魔の使い女こと謎の質屋『むじな屋』の主お理久だった。大店の娘から、亡き母が秘密を預けていた代償として広大な庭を取り上げられる、という阿漕な話を聞いた蝶次は、義憤から化野のむじな屋を訪れるが……。誰しもが抱く悔恨。それでも前を向く勇気と覚悟を描く時代小説。
(本書カバー裏紹介より)
本書は、秘密を預かる奇妙な質屋、むじな屋に、重荷を抱えて頼ってくる人々を描いた、癒しに満ちた市井人情小説です。
主人公の蝶次は、大店の跡継ぎとして育てられながらも、放蕩を重ねて、弟子入りした庭師の家も飛び出し、刃傷沙汰の末に入牢という、過去を持つ二十五歳の若者。
今は、心を入れ替え、京都西町奉行所同心・神島修吾の手先をつとめ、お上の御用を手伝っています。
「『むじな』て、お前、真昼間に出てくるもんなんか?」
驚いて問い返すと、お美代は真顔でかぶりを振った。
「化け物のことやあらしまへん。『むじな屋』て質屋の話どす。店のお客はんから聞いたことがおますのや。なんや、えろう変わったもんを質草に取って、金を貸してくれる店なんやそうどす。持ち歩いてる壺の中には、お金が入っているとか……」(『むじな屋語蔵 世迷い蝶次』P.9より)
明和四年(1767年)三月、春に降る雨の中、蝶次は高瀬川の辺で、目の前を傘も差さずに行きすぎた美女に声を掛けて傘を差し出しました。ところが女は、青磁の壺を抱えていて傘を持つ手がないと断って去っていきました。
後で、料亭の下働きの下女のお美代に女のことを聞くと、女は「むじな屋のお理久」で、「むじな屋で金を借りたら、家に死人が出る」とか「閻魔の使い女」とも呼ばれているとか、物騒な噂を聞きました。
蝶次は、絹問屋の娘から、亡くなった母が「むじな屋」に秘密を預けていた代償として、広大な庭を取り上げられるという阿漕な話を聞き、義侠心に駆られて、化野の念仏寺の近くにあるという「むじな屋」を訪ねます……。
お理久のミステリアスでシュッとした立ち振る舞いも、蝶次のちょっと頼りなくて世迷いぶりも魅力的。
江戸の京都を舞台にした、ちょっと不思議で謎に満ちた物語にどんどん引き込まれていきます。
むじな屋語蔵 世迷い蝶次
祥伝社 祥伝社文庫
2020年6月20日初版第1刷発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:芦澤泰偉
カバーイラスト:卯月みゆき
●目次
第一章 雨ノ語
第二章 蔵ノ語
第三章 庭ノ語
解説・大矢博子
本文324ージ
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『むじな屋語蔵 世迷い蝶次』(三好昌子・祥伝社文庫)
『京の縁結び 縁見屋の娘』(三好昌子・宝島社文庫)