『時代小説 ザ・ベスト2020』
日本文藝家協会編による短編歴史時代小説アンソロジー、『時代小説 ザ・ベスト2020』(集英社文庫)を入手しました。
2016年度版から、毎年刊行されている、集英社文庫オリジナルの「時代小説 ザ・ベスト」シリーズの最新刊です。
2019年度発行の文芸誌に掲載された作品群から11の短編を精選収録。北海道開拓に向かう旧尾張藩の男女を描く奥山景布子「太郎庵より」、大河ドラマの原作になった『西郷どん!』のスピンオフ的な作品である林真理子「仮装舞踏会」など、歴史時代小説の名手たちが紡ぐ多種多様な物語は、至福のひとときを与えてくれる。浮世を忘れ、読書の愉しみに浸れる絢爛たる年度版アンソロジー。オリジナル文庫。
(本書カバー裏作品紹介より)
本書は、2019年に文芸誌に発表された歴史時代小説の中から、六人の選考委員(順不同敬称略=川村湊、雨宮由希夫、伊藤氏貴、植松三十里、末國善己、縄田一男)が、セレクトした短編11編を収録しています。
(前略)収録作を改めて読み直してみると、時代の変わり目を通ったがゆえに思わぬ苦労を強いられたり、新時代で暮らしているのに旧時代の価値観が棄て切れず苦悩する人を取り上げたりと、歴史の結節点を題材にした作品が並んでいることに気づきました。
(『時代小説 ザ・ベスト2020』「節目の時代に読者に夢を与える歴史時代小説――末國善己」P.476より)
選考委員の一人、文芸評論家の末國善己さんが巻末エッセイで触れているように、「平成」から「令和」へと変わった節目の年らしい作品、そして、歴史時代小説の最前線で活躍されている作家たちの作品が楽しめます。
村木嵐「あかるの保元」
平安末期、内裏の雑仕女、十五歳の少女あかるの視点で描かれる、若き日の後白河天皇と今様。
箕輪諒「宇都宮の尼将軍」
この短編で描かれる、「宇都宮の尼将軍」とは、下野中部の戦国大名、宇都宮広綱の未亡人、南呂院のことだそう。
佐々木功「沈黙」
慶長五年七月、上杉征伐に出陣した、細川越中守忠興の元へ届いた二通の書状。その書状を読んだ忠興の胸中とは……。忠興の玉子(ガラシャ)への想い。
矢野隆「鴨」
愛妾・お梅を新選組の芹沢鴨に奪われた呉服商・菱屋太兵衛の鬱屈を描いています。戦国や戦乱を中心に書いてきた著者の新境地。
植松三十里「雪山越え」
甲州の武田方に囚われた、徳川家康の異父弟・松平康俊は、冬場で見張りの目が緩んだ隙に脱出を試みました。
大塚卓嗣「脱兎」
本能寺の変後の、森蘭丸の兄、森長可の本領・美濃金山への決死の脱出行を描いています。
川越宗一「ゴスペル・トレイン」
日向佐土原藩主・島津忠寛の三男に生まれ、西南戦争で西郷隆盛の軍に加わった、島津啓次郎の米国留学の話が描かれています。
青山文平「剣士」
史実を織り込んだ歴史小説の要素が強い作品が収録されている中で、本編は一人の剣士を描いた時代小説として異彩を放っています。武家に生まれ剣の腕が立ちながらも、次男だったゆえに「厄介叔父」として生きた男が描かれています。
浮穴みみ「貸し女房始末」
明治の北海道の開拓の歴史を描く短編集『楡の墓』の一編です。
2020年の歴史時代小説の最前線を担う、作家たちの渾身の作品ばかり。
歴史時代小説の面白さ、多様性や今時感、計り知れない可能性が楽しめる、アンソロジーです。
時代小説 ザ・ベスト2020
集英社 集英社文庫
2020年6月25日第一刷
集英社文庫のために編まれたオリジナル文庫
カバー:桐野太志(Balcony)
●目次
太郎庵より 奥山景布子
仮装舞踏会 林真理子
あかるの保元 村木嵐
宇都宮の尼将軍 箕輪諒
沈黙 細川越中守忠興御事 佐々木功
鴨 矢野隆
雪山越え 植松三十里
脱兎 大塚卓嗣
ゴスペル・トレイン
剣士 青山文平
貸し女房始末 浮穴みみ
巻末エッセイ 節目の時代に読者に夢を与える歴史時代小説 末國善己
本文482ージ
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