『弟切草 小烏神社奇譚』
篠綾子さんの文庫書き下ろし時代小説、『弟切草 小烏神社奇譚(おとぎりそう こがらすじんじゃきたん)』(幻冬舎時代小説文庫)を入手しました。
本書は、江戸・上野の奥まった場所にある、とある古い神社、小烏神社が舞台になっています。
一風変わった名前の神社は、平家一門の家宝で、明治になって皇室御物となった、太刀『小烏丸(こがらすまる)』所縁の神社という設定です。
小烏神社の若き宮司である竜晴は、人付き合いが悪くて無愛想。唯一の友人は、神社の一画で薬草を育てている医者で本草学者の泰山。ある日、薬種問屋の息子が毒に倒れる。懸命な治療によって一命を取り留めるが、何も語らない。さらに、かれの兄も行方知れずとわかり……。竜晴と泰山は、兄弟の秘密に迫り、彼らの因縁を断ち切ることができるのか。
(本書カバー裏紹介より)
主人公の賀茂竜晴(かもりゅうせい)は、小烏神社の若き宮司で、白い袴に総髪という出で立ちのイケメン。先祖には役小角がおり、陰陽師安倍晴明の師匠だった賀茂忠行、保憲父子もいるという名族賀茂氏の血を引きます。そして、陰陽の術で、白蛇の「抜丸(ぬけまる)」とカラスの「小烏丸」を付喪神として従者代わりに使役していました。
二年前、小烏神社の竜晴の前に、医者で本草学者の立花泰山(たちばなたいざん)が現れました。
神社の庭に蓬が生い茂っているのを見て、薬として使いたいので分けてほしいと声をかけ、何日も続けて蓬を採りにきたあげく、やがて、蓬だけを育てているのはもったいないから、他の薬草も植えたらどうかと持ち掛けて、庭を好きに使ってかまわないという許可を得ました。
「聞けば、こちらは小烏神社とおっしゃるそうですね。まさに、薬とご縁の深いお名前ではありませんか。これは、神のお導きに他なりません」
泰山の言葉に、竜晴は妙な表情を浮かべた。
「この神社は生憎と、薬とは何の縁もありません。『小烏神社』という名は、遠い昔、この地を支配した平将門公が太刀『小烏丸』を祀ったことによるもの。その後、宝物の太刀は将門公を討った平貞盛公によって持ち去られ、その子孫である清盛公の手に渡り、壇ノ浦の合戦を経て行方知れずとなりましたが……。さて、この話のどこに、薬と縁があるのですか」(『弟切草 小烏神社奇譚』P.13より)
人付き合いが悪くて無愛想な竜晴も、陰を微塵も感じさせない陽だまりのような笑顔を見せる、生まれながらの善人の泰山に、次第に心を開き、親しくなっていきました。
ある日、小烏神社に、泰山は毒を飲んで重症の若者・千吉を運び込みました。千吉は薬種問屋三河屋の倅です。兄の太一も行方不明となっていました。
一方、竜晴は、寛永寺の天海大僧正に呼び出されました……。
竜晴と泰山の二人がバディとして、三河屋の兄弟の事件を追います。
そして、天海の依頼とは……。
夢枕獏さんの『陰陽師』シリーズを江戸に移したような、不思議で楽しみな物語が始まりました。
弟切草 小烏神社奇譚
幻冬舎 幻冬舎時代小説文庫
2020年6月15日初版発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:アルビレオ
カバーイラスト:千海博美
●目次
一章 宮司と本草学者
二章 寛永寺の大僧正
三章 人を呪わば
四章 毒を食らわば
五章 善事も一言
六章 悪事も一言
七章 神は慢心を嫌う
八章 弟切草の花咲く神社
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『弟切草 小烏神社奇譚』(篠綾子・幻冬舎時代小説文庫)