『あんの青春 春を待つころ お勝手のあん(二)』
柴田よしきさんの長編時代小説、『あんの青春 春を待つころ お勝手のあん(二)』(時代小説文庫・ハルキ文庫)を入手しました。
著者の時代小説デビュー作『お勝手のあん』は、品川宿の老舗宿屋で働く、女中見習いのおやすを主人公とした青春時代小説で、出色の面白さがありました。
待望の続編である本書を手に取るまで、うかつなことに「赤毛のアン」の時代小説版であることに思い至りませんでした。
そういえば、「赤毛のアン」の第2作は「アンの青春」というタイトルでした。
安政二年、江戸の大地震からふた月が過ぎ、品川宿の宿屋「紅屋」もようやく落ち着きを取り戻しつつある。台所付きの女中見習い・おやすは、正式に女中となれる日を夢見つつ、充実した毎日を送っていた。そんなある日、おやすはおつかいに行った団子屋で、武家の生まれらしきお嬢様・おあつと出会う。おやすは、おあつが自分には想像もできない世界の人だ、という気がしていて――。人として、女性として、女料理人として成長していく、時代小説版「赤毛のアン」、シリーズ第二弾。
(本書カバー裏紹介より)
おやすは十五歳。品川宿の老舗宿屋「紅屋(くれないや)」のお勝手女中見習いです。
干し柿作りや尾頭のついた魚一匹を出刃でおろすなど、お勝手の仕事を少しずつ任されるようになっていました。
おやすは、紅屋の料理人の従妹で、高輪大木戸近くで団子屋を営んでいるおくまの所にお使いに行き、団子づくりを教わるというお武家様のお姫さまのような篤子と出会いました。
と、半分開いたままだった勝手口の戸が動いて、顔を出したのは、年若いご新造さんだった。いや、歯黒めをしていないので、まだ娘さんなのかもしれない。おそらく、やすの親友である品川随一の大旅籠、脇本陣百足屋のお嬢様、お小夜さまよりも一つ、二つは年上だろう。落ち着いた色合いの着物を着て、髪も人妻のように地味にまとめているけれど、抜けるように白い肌は輝いて、頬には桃のような赤味がさしている。美女、というような顔立ちではないけれど、この上なく上品で優しげで、黒目がちな瞳は、面白い芝居でも見ているかのように煌めいていた。
「あら」
見知らぬ女の人は、やすを見て微笑んだ。(『あんの青春 春を待つころ お勝手のあん(二)』P.13より)
親友で、脇本陣百足屋のお嬢様、お小夜は大地震の後、百足屋の大広間が怪我した人たちの療養所に開放された際に、蘭方医のお手伝いをして以来、蘭方医になる夢を膨らませていました。
赤い布の袋に小豆を詰めて、医学書に載っている絵を見ながら、臓腑のお手玉を楽しそうに作って、蘭方の勉強をするほどでした。
「これが、心の臓。あんちゃんの胸にも、こんなのが入っているのよ」
お小夜さまは、最近ではすっかり、やすのことを「あん」と呼ぶようになってしまった。本当は「やす」にどんな字をあてるのが正しいのか、やす自身も知らない(中略)。お小夜さまは、安、という字がいいと勝手に決めて、だから「あん」と呼ぶ。(『あんの青春 春を待つころ お勝手のあん(二)』P.23より)
おあつとの出会い、お小夜の縁談、ずっとこのままではいられない。一日一日を大切にしたと願う、おやす=あんは青春真っ只中。
おあつとの交流の行方も気になりますが、一気読みするにはもったいはなく、江戸版「赤毛のアン」をじっくり味わいたいと思います。
あんの青春 春を待つころ お勝手のあん(二)
柴田よしき
角川春樹事務所 時代小説文庫・ハルキ文庫
2020年6月18日第一刷発行
月刊「ランティエ」2019年10月号~2020年3月号までの掲載分に加筆・修正したもの
装画:鈴木ゆかり
装幀:荻窪裕司
●目次
一 おあつさん
二 香りの道
三 嫌がらせ
四 玉子焼きくらべ
五 星の甘さ
六 猪とお侍
七 おあつさんと猫
八 島津様の味
九 家出
十 女料理人おみねさん
十一 女料理人からの謎かけ
十二 別れの季節
本文282ページ
■Amazon.co.jp
『お勝手のあん』(柴田よしき・時代小説文庫・ハルキ文庫)
『あんの青春 春を待つころ お勝手のあん(二)』(柴田よしき・時代小説文庫・ハルキ文庫)
『アンの青春』(L.M.モンゴメリ著、松本侑子訳・文春文庫)