『布石 百万石の留守居役(十五)』
上田秀人さんの時代小説書き下ろしシリーズ、『布石 百万石の留守居役(十五)』(講談社文庫)を入手しました。
加賀藩前田家の若き留守居役、瀬能数馬が、岳父で宿老・本多政長から薫陶を受け、各藩留守居役との駆け引きを繰り広げる、人気シリーズの第十五作です。
加賀藩前田家当主に目通りを望む越前松平家の家老の狙いは、藩主・綱昌が認めた“書状”を取り戻すことだった。対する加賀の宿老・本多政長の嫡男・主殿が講じた策とは。江戸にいる政長と数馬は、越前松平家の留守居役との悶着に始末をつけるべく働く。いわくつきの書状の行方が各藩の命運を握る。
(カバー裏面の説明文より)
前作(『愚劣』)で、数馬と政長は、越前松平家留守居役須郷の望みを拒んだことから、報復として、吉原の男衆たちの襲撃を受けました。
もちろん、数馬らは男衆たちをあっさり撃退しましたが、越前松平家に対して、どのように後始末をするか、政長に問われました。
「咎めを受けておらぬと」
「受けておらぬと申してはおらぬ。だが、それは我らが与えたものではない」
本多政長が首を振った。
「このままにしておくのは悪手であるぞ」
「やられたらやり返せと」
岳父の言いたいことを数馬は理解した。
「そうじゃ。加賀は越前に手痛い目に遭わされながら、なにもできずにいると世間から思われれば、家の威に欠ける」
(『布石 百万石の留守居役(十五)』P.34より)
一方、加賀では、政長の嫡男、主殿・政敏が、政長の隠居届と自身の家督相続届を藩庁に提出しました。
政長の江戸出府中のこの行動に隠されて意味とは……。
「浅はかであった」
しくじったと知って以来、綱昌は夜も眠れていない。
綱昌が悪いのはたしかであった。他家の留守居役の妻とわかっていながら、召し上げようとした。家中の侍の妻でもまずいのに、百万石の留守居役の妻、それもあの本多家の娘と来れば、加賀藩に喧嘩を売ったに等しい。(『布石 百万石の留守居役(十五)』P.41より)
越前松平家の次席家老結城外記は、藩主松平綱昌が犯した過ちのために書いた詫び状を取り戻すために、金沢にやってきました。
加賀前田家百万石とはいえ外様で、神君家康公の次男結城秀康を祖とする越前松平家よりは格下になることから、次席家老の自分が謝意を見せて頼めば詫び状を取り戻せると安易に考えていました。
ところが、加賀藩藩主の前田綱紀とはなかなか会うことができず、加賀本多家に逗留し、政敏からは部屋から自由に出ることも止められていました。
筆頭宿老で「堂々たる隠密」の家の嫡男として育てられた政敏と、政長に娘婿として認められて、百万石の留守居役に抜擢されて薫陶を受ける数馬、加賀前田家と越前松平家の間で、詫び状を巡って繰り広げられる、駆け引きから目が離せません。
布石 百万石の留守居役(十五)
上田秀人
講談社 講談社文庫
2020年6月11日第1刷発行
文庫書き下ろし
カバー装画:西のぼる
カバーデザイン:多田和博+フィールドワーク
●目次
第一章 留守の宿題
第二章 古きもの
第三章 女の援け
第四章 裏の裏
第五章 投げられた石
本文296ページ
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『布石 百万石の留守居役(十五)』(上田秀人・講談社文庫)
『愚劣 百万石の留守居役(十四)』(上田秀人・講談社文庫)