『文豪宮本武蔵』
田中啓文(たなかひろふみ)さんの時代小説、『文豪宮本武蔵』(実業之日本社文庫)を入手しました。
戦国末期から江戸初期に活躍した剣豪、宮本武蔵が明治にタイムスリップして、剣を捨て小説家に転職するという、痛快時代エンターテインメント小説です。
宮本武蔵は、巌流島での佐々木小次郎との対決に勝利をおさめましたが、病身の妹・夏を養っていた小次郎を殺してしまいました。
手段を択ばぬ戦い方が悪評となり、その後は仕官もかなわず、大坂の陣などの合戦では剣の腕だけでは大きな手柄をあげることもできず、不遇の日々を送りました。
武蔵は、起死回生とばかりに江戸へ出て、名高い剣客に勝って名を高めようと、将軍家指南役の柳生但馬守に立ち合いを求めました……。
「武蔵……おまえに今死なれては困るのだ……」
「なに?」
「夏を助けられるのはおぬししかおらぬ。それゆえ一度だけおぬしを救うてやる」
「どういうことだ」
「おまえは本来ならば柳生但馬守に斬り殺されたはずだ。それを救うために、おまえを一旦べつの世界に飛ばす」
「なにを言っておるのだ」(『文豪宮本武蔵』P.64より)
武蔵は目が覚めると、なぜか時を越え明治時代の東京に。
小次郎の妹・夏に瓜二つの樋口一葉と出会い、二百五十年以上も後(明治二十九年)の、文明開化の時代にいることを教えられました。
廃刀令が出されて帯刀が禁じられた時代に生計を立てるために、武蔵は、「宮本ひさし」と名を変えて、恵まれた体を生かして人力車の車夫となりました。
夏目漱石、正岡子規ら文士と知り合いますが、つい“小説家志望”と口を滑らせてしまい…!?
「どんな小説家がお好きかね」
う……。汗が顔から噴き出す。好きも嫌いも、小説なるものを読んだことがないのだ……。
「俺は、他人が書いたものはどうでもよいのだ。戦うのはただおのれとのみ。他人が書いた小説がいかほd優れていようと、それはそのものの手柄にすぎぬ。おのれの作品とは関わりがない」
夏目金之助が、
「なるほど、宮本さんはまるで武芸者のようなことをおっしゃる。それはそのとおりだが、小説家になりたいと思いつめ、上京までなさったのだから、読んで感化を受けた小説家、感銘を覚えた小説などはあるのではないですかな」
「そ、そうだな……えーと、それはその……強いて挙げるなら……」
(『文豪宮本武蔵』P.116より)
「剣豪」と「文豪」、一字違いですがギャップが面白くて、タイトルが目に飛び込んできただけで、読んでみたくなりました。
Minoruさんの表紙装画も素敵で、笑いありの痛快時代エンターテインメントにピッタリ合っています。
文豪宮本武蔵
田中啓文
実業之日本社 実業之日本社文庫
2020年6月15日初版第1刷発行
初出 Webジェイ・ノベル
カバーデザイン:鈴木正道(Suzuki Design)
カバーイラスト:Minoru
●目次
第一話 武蔵、戦う
第二話 武蔵、剣を捨てる
第三話 武蔵、小説を書く
第四話 武蔵、秘密を暴く
エピローグ
本文301ページ
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『文豪宮本武蔵』(田中啓文・実業之日本社文庫)