『掟破り 陰仕え 石川紋四郎2』
冬月剣太郎(ふゆつきけんたろう)さんの文庫書き下ろし時代小説、『掟破り 陰仕え 石川紋四郎2』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を献本いただきました。
“陰仕え”として公儀の敵を闇から闇へやむなく斬ってきたという秘事を抱える薄毛の剣士の石川紋四郎が活躍する、“闇仕事”痛快時代小説シリーズの第2弾です。
幕府の敵を成敗する。“陰仕え”として密命に従い、紋四郎は友を己の手で斬った。激しい後悔に苛まれるなか、次の命はかつての同門の兄弟子を斬れというものだった。この苦悩の極み、愛妻さくらに吐露することも叶わない。そのさくらは生来の好奇心が昂じて「難題相談所」を開くが、ある殺しの下手人に迫り、その身を狙われる。さらに紋四郎は何者かの奸計にはめられ、夫婦ともに危難の渦に……おしどり夫婦の命運は?
(文庫カバー裏の紹介文より)
本書の主人公、石川紋四郎は、平山行蔵に師事して講武実用流を学んだ剣の使い手です。高輪南町に屋敷を構え、妻さくらと黒い雌猫「のり」と暮らしています。
文政四年(1821)晩春、さくらは、江戸の困り果てた人びとのために、屋敷の門前に「よろず難題相談所」の看板を掲げました。
“陰仕え”の仕事で、瀕死の重傷を負った紋四郎を、ひと月近く寝ずの看病をした桜に対して、感謝の念から何か欲しい物はないかと訊ねた結果、簪などのものではなくて、「よろず相談所」の開設となりました。
さくらは好奇心がすこぶる旺盛で、いったん関心をよせるや、じっとしてはいられなくなる性分である。
困ったことに、危険をともなう事件であればあるほど興味をしめす傾向があった。
とくに殺しには尋常ならざる関心をよせており、実際、昨年起きた読売殺しでは、紋四郎の目を盗んで、みずから動いて事件を解明しようとした。
あのとき、どれほど紋四郎の心胆を寒からしめたことか。
(『掟破り 陰仕え 石川紋四郎2』P.17より)
さくらの「よろず難題相談所」に、北町奉行所の定町廻り同心・曲多円次郎の妻たかが相談に訪れました。
夫と同僚の同心の二人が、夜廻りの途上、大門通りで殺されましたが、下手人が見つかっていません。愛する夫を手にかけた者が憎いが、定町廻り同心が一度に二人減った町奉行所では解決はおぼつかないので、代わりに下手人を捜してほしいという「難題」でした。
しかも、亡くなった二人とも刀傷がまったく見当たらないにもかかわらず、血を吐いて絶命していたと瓦版に書かれていました。
恐るべき殺しの技の持ち主と思われ、紋四郎は良そうだにしかなかった事態の展開に頭を抱えることになりました。
「おぬし、同門の兄弟子を切り捨てることができるか」
幻蔵は、いつもの猫がネズミをいたぶるような口調で問うてきた。
「陰仕えの務めとあらば、果たさねばならぬ」
紋四郎は答えてから歯ぎしりした。
幻蔵は声を出さずに嗤っている。
陰仕えとは、徳川家に災厄をもたらす者どもを秘密裏に始末する務めをいう。
(『掟破り 陰仕え 石川紋四郎2』P.37より)
紋四郎は父の石川大三郎から、家督とともに陰仕えの役目を継ぎ、幕府の御庭番と称して、幕府と陰仕えの連絡役を務める謎の男・幻蔵から、密命を受けていました。
今回の仕置きの相手は、かつての同門の先輩でした……。
おしどり夫婦が、いかにして危難を乗り越えていくのか、展開が気になります。
愛猫「のり」を飼うことになったきっかけを作った、猫好きの絵師・歌川国芳が登場します。絵師としてはまだ駆け出しですが、狂言回しのような役回りで、物語にアクセントを加えています。
掟破り 陰仕え 石川紋四郎2
冬月剣太郎
早川書房 ハヤカワ時代ミステリ文庫
2020年6月15日発行
本書は、文庫書き下ろし
カバーイラスト:浅野隆広
カバーデザイン:k2
目次
第一章 陰の悩み
第二章 陰の顔
第三章 陰の耳
第四章 陰の女
第五章 陰の男
第六章 陰の立役者
第七章 陰の糸
第八章 陰の謀
第九章 陰の運命
第十章 陰の掟
第十一章 陰の遺言
本文318ページ
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『掟破り 陰仕え 石川紋四郎2』(冬月剣太郎・ハヤカワ時代ミステリ文庫)