『新地奉行 太田太田太 老中の密命』
山田剛(やまだたけし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『新地奉行 太田太田太 老中の密命』(コスミック・時代文庫)を献本いただきました。
江戸市中のあらゆる屋敷を管理する「新地奉行」の職務に就いた旗本、太田太田太が、屋敷に関連する、不審事や騒動など事件を解決していく、痛快時代小説シリーズの第2弾です。
屋敷改こと「新地奉行」は、江戸市中のあらゆる屋敷の所在地や坪数・貸借、相続などの届出を諸屋敷帳に記録し、管理した。この御役目に出役として就いたのが、人を食ったような名の太田太田太である。だがこの男、大名家や旗本家を問わず、どんな屋敷にも立入り御免という役得を盾に、家内に蠢く悪を探り出して剣をふるう。正義の直参であった。
ある日、日感寺から地獄堂建立の届出があった。ところがこの寺、将軍側室の実父の息が掛かっており、しかも大掛かりな貸付も行っているという。不正の匂いを敏感に嗅ぎ付けた太田太は、踏み込むことが許されない本堂へ向かうことに……。隠れた悪の証はあるのか!? 身分も地位も恐れない、特命奉行の豪剣が今日も江戸の町で煌めく!
(表紙カバー裏の内容紹介より)
ふざけた名前をもつ太田太田太ですが、書院番三百俵高の旗本で、新地奉行は出役としてつとめています。同僚で相役の、一二三四五郎(ひふみよごろう)と平塚雀仲(ひらつかじゃくちゅう)はともに小姓組番からの出役です。
書院番と小姓組番は両番とも呼ばれ、将軍の身を守る防御任務を主とする親衛隊のような性格をもつ、武官として誉れ高い役目です。
一方、新地奉行は、江戸市中の大名・旗本の屋敷の所在地・坪数・貸借・相続等の届出を諸屋敷帳に記録し、管理するという地味な御役目となります。
剣の腕が立ち、熱血漢の太田太には、机に向かう地味な事務作業はいささか窮屈に感じています。
家斉を乗せた塗駕籠が止まった。
木の葉一枚にも誰しもがその表情を強張らせるほどに、将軍御成りに携わる者の張り詰めた様子が伝わる一瞬だった。
その凍りつくような一瞬の空白を縫って、行列を離れて掛け出す者がいた。
組頭の田坂の強張った顔から、さーっと、血の気が引いた。
駆け出した武士が、直属の太田太だったからだ。(『新地奉行 太田太田太 老中の密命』P.14より)
太田太は、書院番組頭の田坂芳一郎より、新地奉行の御役目から離れて、将軍家斉の前田家への御成りの御供をつとめる一員に加わるように命じられました。
上様の御成りの行列が進む中で、警固する書院番を率いる田坂が肝を冷やすような、小さな事件が起こりました。
「拙者では安心できぬと申すのか。日感寺は日啓上人の息のかかった寺ゆえ、拙者が何をするかわからず心配だと、そう申すのか四五郎は」
「私ではありません、組頭様が、です」
「そう聞けば尚更、日感寺とやらをこの目で見たい。雀仲殿、ご同行仕る」
「よかろう。だが、組頭殿には」
雀仲がおどけた口調で言い、口許に指を当てた。
(『新地奉行 太田太田太 老中の密命』P.30より)
組頭の田坂より、新地奉行の平塚雀仲に、四谷の日感寺から地蔵堂建立の届出があり、適宜、監督するようにと、書付が渡されました。
日啓上人は、家斉の側室お美代の方の実父で、中山法華経寺の智泉院の住職。松本清張さんの『かげろう絵図』でも描かれる感応寺事件のモデルとされています。
さて、物語は、大奥の後ろだてのある日感寺に、太田太らが金をめぐる不正の疑いをもって、立ち入ることに……。
本書では、身分も地位も恐れない、新地奉行太田太の痛快な活躍が楽しめる、「歪んだ愛」など、全三話を収録しています。
新地奉行 太田太田太 老中の密命
山田剛
コスミック・時代文庫
2020年6月25日初版発行
本書は、文庫書き下ろし
カバーイラスト:川島健太郎
●目次
第一話 歪んだ愛
第二話 老中の密命
第三話 嫁の仇
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『新地奉行 太田太田太 老中の密命』(山田剛・コスミック・時代文庫)(第2巻)
『新地奉行 太田太田太』(山田剛・コスミック・時代文庫)(第1巻)
『かげろう絵図 上』(松本清張・文春文庫)(第1巻)