『じんかん』
今村翔吾さんの長編時代小説、『じんかん』(講談社)を入手しました。
本書の主人公は、松永久秀。松永弾正の名でも知られています。
仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き尽くしたことから、織田信長をして、「この男、人がなせぬ大悪を一生の内に三つもやってのけた」と言わしめました。
NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の怪演で、吉田鋼太郎さんのイメージがあります。
時は天正五年(1577年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かした時に直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。
(カバー帯の内容紹介より)
久秀が信長に仕えながら、一度ならず二度も謀叛を起こしたことについて、歴史上謎が残っています。
家臣に対して、短気でせっかち、厳格な面を見せる信長が、一度目の謀叛を許したうえで、二度目の謀叛に際して久秀の書状に対しても意外な反応をしました。
上様は不敵に笑いつつ、凛と言った。
「で、あるか」
先刻の風が琵琶の湖を撫でてきたからか、鼻孔に水香りが広がった。
「人間(じんかん)五十年……。下天(げてん)のうちをくらぶれば……」
上様はふいに口ずさみ始めた。
――これは敦盛(あつもり)……。
(『じんかん』P.17より)
本書のタイトルは、桶狭間の戦いの前夜など信長が折に触れて口ずさんだ、幸若舞の演目のひとつ『敦盛』のうたい出しのフレーズにある「人間」に由来しているようです。
「じんかん」とは、(人が住んでいる)世界、世の中という意味です。
物語は、出自が不明といわれる久秀の少年時代から始まります。
「あれは永禄から元亀に変わって間もなくのことだった……」
上様はじっとこちらを見つめながら続けた。
「余は奴がどこから湧いたのか、興を持っていた。そこで奴にどこで生まれ、どこからきたのかと訊いた。すると、余の問いに、奴はぽつぽつと語り始めたのだ」
酒も回って来たのだろうか。久秀の出自を語りだした上様はいつもよりも饒舌であった。
(『じんかん』P.82より)
久秀と二人で夜を徹して語ったことがある信長は、二度目の謀叛が急報された夜、小姓の狩野又九郎を相手に、久秀が九兵衛と名乗っていた幼少時代の話を始めました……。
松永久秀は、戦国一の極悪人なのか、それとも貧困、不正、暴力が満ち溢れたいた時代が求めたヒーローなのか。
そして、信長は……。
500ページを超える大長編ながら、著者の奏でる物語の世界に引き込まれて、一気読みできそうなエンターテインメント歴史時代小説です。
著者の今村翔吾さんの著作が、デビュー3年で累計100万部突破!とのこと。
『ひゃっか! 全国高校生生花バトル』を除くと、すべてが歴史時代小説作品ということで、時代小説のすそ野拡大に大きく貢献されています。
100万部突破を記念した出版社3社による期間限定キャンペーンが行われています(2020年9月末まで)。
発売中の『じんかん』(講談社)、 6/15発売の『童の神』(ハルキ文庫)、 6月中に発売予定の『襲大鳳 羽州ぼろ鳶組(上)』(祥伝社文庫)の3冊を対象に、帯の応募券で抽選で記念プレゼントが当たります。
じんかん
著者:今村翔吾
講談社
2020年5月25日第1刷発行
「小説現代」2020年4月号に一挙掲載したものを、単行本化に際し、大幅に加筆・修正しました。
装画:Jackson Pollock
Number 33, 1949(提供・アフロ)
装丁:川名潤
●目次
第一章 松籟の孤児
第二章 交錯する町
第三章 流浪の聲
第四章 修羅の城塞
第五章 夢追い人
第六章 血の碑
第七章 人間へ告ぐ
本文509ページ
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『じんかん』(今村翔吾・講談社)