『四神の旗』
馳星周さんの長編小説、『四神の旗(ししんのはた)』(中央公論新社)を入手しました。
本書は、『比ぶ者なき』に続く、奈良時代を舞台にした、長編歴史時代小説です。
藤原不比等の四人の息子たち、武智麻呂、房前、宇合、麻呂に光を当てた古代歴史ロマンです。
藤原四兄弟は、天平九年(737)に大流行した天然痘によって、相次いで病死したことで知られています。
新型コロナウイルスによる、世界的なパンデミックが起きた2020年。
奈良時代に起きて、政治の中心人物たちが相次ぎ罹患して病死した、この疫病大流行はマスメディアでも取り上げられることが少なくなくあらためて注目された人もいるのではないかと思います。
武智麻呂、房前、宇合、麻呂。父・藤原不比等の遺志を継ぎ、四人の子らはこの国を掌中に収めることを誓う。だが政の中心には、生前の不比等が唯一恐れた男、長屋王が君臨していた。兄弟は長屋王から天皇の信頼を奪うために暗躍。それに気づいた長屋王は、兄弟の絆を裂くための策を打つ――。
(カバー帯の内容紹介より)
物語は、不比等が亡くなったところから始まります。
「不比等が死んだ」
太上天皇が言った。
「死にましたね」
天皇が言った。
橘三千代は頭を下げた。
(『四神の旗』P.7より)
太上天皇は阿閇皇女(あへのひめみこ。元明天皇)で、天皇は阿閇の娘の氷高皇女(ひだかのひめみこ。元正天皇)。三千代は不比等の妻で、太上天皇の寵愛が深い女官です。
「そなたたち兄弟が政を動かすのであれば、安宿媛が皇后になることもたやすい。そして、藤原の娘が皇后になるという新しいしきたりをそなたたちが作るのだ」
「そのようなことができますでしょう」
「できるとも」
不比等は居住まいを正した。
「首様が玉座に就かれるとき、大極殿の南には四神の旗が立てられる。四神とはすなわち、そなたら兄弟だ。青龍、白虎、朱雀、玄武。そなたたち兄弟が力を合わせ、藤原のための新しきしきたりを作るのだ」
(『四神の旗』P.6より)
生前の不比等の言葉をから言われた言葉を、末子の麻呂は葬儀で回想しました。
四兄弟の前に、不比等が唯一恐れた男、長屋王が立ちはだかります。
長屋王は、不比等に奪われた政を取り返し、天皇と皇親の権威の回復を図ろうとします。
そして、三千代も、四兄弟の間に亀裂を生じさせて、自滅に追い込むことを画策します……。
血縁関係がある者同士が敵味方に分かれて繰り広げられる、熾烈な政権抗争に目を奪われそうです。
四神の旗
著者:馳星周
中央公論新社
2020年4月25日初版発行
初出:文芸webサイト「BOC」2018年11月~2019年11月
カバーイラスト:チカツタケオ
カバーデザイン:bookwall(村山百合子)
●目次
なし
本文403ページ
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『四神の旗』(馳星周・中央公論新社)
『比ぶ者なき』(馳星周・中公文庫)