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一刀流・中西忠太、直心影流・長沼四郎左衛門に教えを乞う

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『胎動 熱血一刀流(二)』

胎動 熱血一刀流(二)岡本さとるさんの文庫書き下ろし時代小説、『胎動 熱血一刀流(二)』(ハルキ文庫)を紹介します。

小野派一刀流中西派(中西派一刀流)の剣術道場を興した、剣豪・中西忠太を主人公とする、熱血剣豪小説シリーズの第2弾です。

道場を破門されたやさぐれ剣士たちを集めて、自らの道場を開いた小野派一刀流の剣客・中西忠太。五人の若弟子に鬼師範と呼ばれ、厳しい猛稽古を強いながら、来るべき仕合に勝つことを目指し、剣術に明け暮れる充実の日々を過ごしていた。一方で、入門直後に忠太と衝突して道場を去っていった、市之助のその後を心配する弟子達は……。実戦でも勝てる真の強さを身に付けるため、修練をひたすらに続けるのみ――傑作剣豪人情小説第二巻。
(カバー裏の内容紹介より)

中西道場が開発した、立合用の“いせや”という稽古刀を使った忠太の稽古法を巡って、小野道場での兄弟子で旗本酒井右京亮と対立し、一年後に小野道場と中西道場で立合をすることになりました。

忠太は、少しでも実践的な稽古を積んでいる者に分があると考えながらも、弟子達が“いせや”で打ち合って目先の勝負にこだわって「斬った」「かすった」の口論をしてしまう、“子供の遊び”となっている状況に、「このままではいかぬ」と焦りと懸念を募らせていました。

もう一度、型や組太刀に重きを置き、素振りや打ち込みで体力をつける稽古に戻そうか、いや、入門した頃に比べて仕合に対する好い感覚が身につき始めているので“いせや”の稽古を休止するのも気が引けると、指導法について悩んでいました。

 家中の士に稽古をつけていると、
「近頃は直心影流の“ながぬま”が、いこう流行っているそうでござりまするな」
 小野派一刀流でも導入すればいかがかと話が出た。
「“ながぬま”か……。なるほど、確かにそうじゃ……」
 忠太は大いに心を動かされた。
 
(『胎動 熱血一刀流(二)』P.58より)

“ながぬま”というのは、剣術の防具の呼称です。
直心影流第七代的伝・山田平左衛門光徳は、稽古に防具を導入し、鉄の仮面、綿甲で肘を覆い、四つ割の竹刀を開発しました。

平左衛門の息子で、第八代的伝・長沼四郎左衛門は、防具に改良を加えて、安全を保ったうえで、竹刀で存分に打ち合える稽古法を編み出しました。

それが評判となり、四郎左衛門が芝江戸見坂に開いた道場には入門者が殺到し、直心影流の名は大いに広まりました。そして、既に四十年前から、その稽古法は続いていました。
忠太は、“ながぬま”の利点を認識しつつも、一刀流の道場では容易く“ながぬま”を導入できまいと思いながらも、長沼四郎左衛門の話を聞いてみようと思いました。

 悪戯や喧嘩の策には、五人はなかなか智恵が回るのだが、弥太五郎は明日、正之助に会いに来ると言っているのであれば、時が迫っている。
 悠長に考えてはいられない。
「こういう話になると、市さんが頼りになるんだがな……」
 大蔵がぽつりと言った。
「そうだ。それだ! ここでうだうだ考えていないで、市之助の智恵を借りよう」
 
(『胎動 熱血一刀流(二)』P.129より)

平井大蔵ら五人の弟子達は、忠太が稽古に取り入れることを認めた“ながぬま”の鉄仮面の改良を依頼するために、野鍛冶の正之助を訪ねました。

しかし、正之助は、一六の弥太五郎が仕切る賭場で、いかさま博奕で借金を抱えて、夜逃げをするところでした。

事情を聞いた五人は、正之助がこれまで通りに野鍛冶の仕事ができるように人肌脱ぐことになり、破門された仲間の市之助の智恵を借りて、厄介事を解決しました。

市之助の授けた策が、著者の代表作「取次屋栄三」シリーズのようで、ニヤリとさせられます。

さて、道場主の中西忠太は“ながぬま”を手に入れて、子供のように稽古ではしゃいでしまいました。
弟子たちを高みに導く優れた指導者の面と剣術バカの面を併せ持つ、忠太のキャラクターが面白くて、物語に引き込まれました。

そういえば、『剣客太平記』の主人公・峡竜蔵(はざまりゅうぞう)も直心影流の剣客だった。

胎動 熱血一刀流(二)

著者:岡本さとる
ハルキ文庫
2020年4月18日第一刷発行
文庫書き下ろし

装画:山本祥子
装幀:五十嵐徹(芦澤泰偉事務所)

●目次
第一話 ながぬま
第二話 仕合
第三話 胎動

本文271ページ

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『熱血一刀流(一)』(岡本さとる・ハルキ文庫)
『胎動 熱血一刀流(二)』(岡本さとる・ハルキ文庫)
『剣客太平記』(岡本さとる・ハルキ文庫)

岡本さとる|時代小説ガイド
岡本さとる|おかもとさとる|時代小説・作家・脚本家 1961年、大阪市生まれ。立命館大学卒業後、松竹入社。 2006年、新作歌舞伎脚本『浪華騒擾記』で第35回大谷竹次郎賞奨励賞を受賞。 その後フリーとなり、テレビ時代劇の脚本家、舞台作品の脚...