シェア型書店「ほんまる」で、「時代小説SHOW」かわら版を無料配布

幕臣三浦按針となった、ウィリアム・アダムスの波瀾の生涯

アドセンス広告、アフィリエイトを利用しています。
スポンサーリンク

『按針』

按針(あんじん)仁志耕一郎(にしこういちろう)さんの文庫書き下ろし長編小説、『按針(あんじん)』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を紹介します。

江戸時代というと、鎖国のイメージが強くありますが、江戸幕府開府の頃は鎖国政策はとられておらず、徳川家康は広く世界に目を向け、積極的に交易を推進していました。

本書は、リーフデ号で豊後に漂着し、やがて家康に仕える幕臣となった、英国人ウィリアム・アダムスの波瀾万丈の生涯を描いた長篇歴史時代小説です。

新航路発見の野心に燃える英国の航海士ウィリアム・アダムスは、荒れ狂う海原に呑まれた。船は日本国の豊後に漂着。やがて徳川家康への接見を契機に、関ヶ原の合戦に駆り出される。死地を生き延びたアダムスは、家康から日本名・三浦按針を授けられる。それは祖国と決別し、妻子を捨てて日本につくせという命令であった。按針がくだした決断とは? 日本を愛し、平和のために家康を支えた、「青い目の侍」の冒険浪漫。
(カバー裏の内容紹介より)

ロンドン郊外で、妻メアリーと二人の子供たちとつましいながらも幸せに暮らしていたウィリアム・アダムスは、「もっと家族に裕福な暮らしをさせたい」という欲望に駆られて、親友のティモシー・ショッテンと弟トーマスと一緒に冒険の旅を始めました。

1598年6月、ウィリアムは、オランダを出港したガレオン船五隻の船団に航海士として、「新航路発見」の航海に出ました。新航路発見で名を馳せるは、当時の貧しい男たちが成り上がるための唯一の方法でした

トルデシリャス条約によってスペインとポルトガルで世界の領海を二分していた影響もあって、ウィリアムの航海は順風満帆ではなく、苦難の連続でした。

大西洋からアフリカ大陸の西側を通り、南アメリカ大陸の最南端マゼラン海峡を回り、モチャ島を経て太平洋を進むという大航海では、熱病や腐った水と食料不足、経験の浅い船長との確執、厳しい寒さと病、途中の島々で原住民と争い、そして凄まじい嵐。

二十二カ月に及ぶ長い航海の末に、ウィリアムの乗ったリーフデ号は、日本の豊後・臼杵に漂着しました。

「太平洋を越えた……? 馬鹿な。東回りで喜望峰を越え、東インドを回って来たんだろう?」
「いや、西回りで太平洋を越えてきた。だから、東回りのポルトガル海域は荒らしていない。ま、ツズ・パードレは長く日本にいてご存じないようだが、ポルトガルはかなり前にスペインに併合され、今は東回りの海域もスペインのものになったがね」
 ツズは最後の一言が気に入らなかったようで、露骨に怪訝な表情を見せた。
「キャプテン。言っておくが、ポルトガルは滅んだのではない。スペイン・ハプスブルク家の王の下に一つになっただけだ。ポルトガル人は今も船には、ポルトガル王国の紋章旗を掲げている。それにしても、オランダ人が古い〈トルデシリャス条約〉をご存じとは驚きだ」

(『按針』P.57より)

リーフデ号の生存者たちは、長崎奉行の寺沢広高と、通詞をつとめるポルトガル人神父ジョアン・ツズ・ロドリゲスとポルトガル人商人リカルド・ペイショットに取り調べられました……。

慶長五年当時の日本は、豊臣秀吉が亡くなって一年余りが過ぎ、八歳の秀頼の後見人として徳川家康が大坂城の西ノ丸で力を持っていました。

家康は、リーフデ号が日本に運んできた、十九門の大砲をはじめとする武器・弾薬を手に入れば日本を統一することができると考えました。

また、ウィリアムらリーフデ号の乗員の話を聞くことで、南蛮諸国の勢力図や優れた技術ばかりか、南蛮人の腹の底にある目論見や企ても知りました。ウィリアムは、家康の信頼を勝ち得ていき、やがて、幕臣・三浦按針として取り立てられました……。

青い目のサムライ、三浦按針の目を通して、関ヶ原の合戦や江戸幕府開府当時の様子が描かれていて興味深い作品となっています。

ウィリアム・アダムス=三浦按針の異国・日本での恋あり、チャンバラありで、大いに楽しめる歴史ロマン。

本書は、主人公がイギリス人で、ロンドンでの家族の様子も描かれていることで、ハヤカワ文庫の海外冒険小説のような雰囲気を持っています。文庫特有のうぐいす色の表紙もしっくりときます。

ウィリアム・アダムスを描いた歴史時代小説では、白石一郎さんの『航海者』がお勧めです。

ウィリアムの息子・ジョゼフが活躍する時代小説には、佐々木裕一さんの『青い目の旗本 ジョゼフ按針』(全3巻)があります。

按針(あんじん)

著者:仁志耕一郎
ハヤカワ時代ミステリ文庫
2020年4月15日発行

カバーイラスト:村田涼平
カバーデザイン:k2

●目次
西の旅人
東の王
筒音轟く、黄金の国
西のメジャー、東の物差し
二頭のライオン
二人の遺言

本文501ページ

■Amazon.co.jp
『按針(あんじん)』(仁志耕一郎・ハヤカワ時代ミステリ文庫)
『航海者(上) 三浦按針の生涯』Kindle版(白石一郎・文春文庫)
『青い目の旗本 ジョゼフ按針(一) 衣笠の姫』Kindle版(佐々木裕一・光文社文庫)

仁志耕一郎|時代小説ガイド
仁志耕一郎|にしこういちろう|時代小説・作家 1995年、富山県生まれ。東京造形大学卒業。 2012年、『玉兎の望』で小説現代長編新人賞、『無名の虎』で朝日時代小説大賞を受賞。 2013年、両作が評価されて、歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞...