『新地奉行 太田太田太』
山田剛(やまだたけし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『新地奉行 太田太田太(しんちぶぎょう おおたたでんた)』(コスミック・時代文庫)を紹介します。
本書は、明朗快活なヒーローが活躍するコスミック・時代文庫の一冊らしく、剣の達人である若者が、密かに与えられた職務の中で出会った悪を颯爽と成敗する、痛快時代小説です。
上から読んでも下から読んでも、太田太田太(おおたたでんた)――。人を食ったような名であるが、この男、歴とした直参旗本の書院番士である。そんな太田太田太が守着として「新地奉行」へ配転となった。新地奉行とは屋敷改とも言われ、江戸市中の屋敷の所在地、坪数、相続などを調べ、届出を諸屋敷帳に記すのがお役目である。そして、その記録を残すために、どこのどんな屋敷にも立入り御免という役得があったのである。
大名家や旗本家も例外ではない。宏大な屋敷でも新地奉行の検めは行われた。だが正義感の強い太田太は、家に隠された重大事の匂いをかぎ取る。闇の空間に悪事の証を見つけ出し、目上の者でも迷わず成敗する特命奉行。その活躍を描く期待の新シリーズ!
(表紙カバー裏の内容紹介より)
主人公の太田太田太は、幕臣でも誉れ高い役職の書院番をつとめる三百俵高の旗本。表四番町の組屋敷に下女お春と下男冬吉と暮らす、二十六、七の独り身の若者です。
家族は、母を七歳のときに亡くしましたが、三年半前に嫁いだ姉・小毬(こまり)と、隠居して家を出た父精一郎がいます。
「太田太」という名は、ちょうど出生の頃、父が回文(上から読んでも下からも読んでも同じ音になる、意味のある文字列を作る言葉遊び)に凝っていたということで、「太田」の苗字に組み合わせで「太田太」と名付けられました。
ある日、組頭の田坂より新地奉行への出役を命じられます。
新地奉行とは「屋敷改」とも呼ばれ、江戸市中の大名・旗本の屋敷の所在地・坪数・貸借、相続等の届出を「諸屋敷帳」に記録する、江戸時代に実在したお役目で、定員は原則四名でした。
実際は肩が凝るような事務作業と聞いて、奉行と聞いて膨らんだ気持ちが一気に萎みました。
太田太は、麹町の煮売り酒屋で市井の者たちと酒を呑んで馬鹿話に興じたり、名前を名乗る際に懐から「太田太田太」と書いた書付を取り出して広げたりして、笑いを取ることが好きな底抜けに明るい若者で、机に向かってじっと仕事をするのを苦手としていました。
同僚は、小姓組から出役してきた新任の平塚雀仲と一二三四五郎。残りの一人平山雪之助は、六日前に行方不明になり空席といいます。
やがて、平山のほかに、さらに三人の旗本が失踪しているということで、若年寄の安藤出羽守から、新任の新地奉行たちに失踪の真相を探るように内々の命が下されました。
「旗本二千三百石のわしに向かって狼藉を働くとは。この場にて成敗致す。名を名乗れ」
「成敗上等。名乗ってやるから、よおく聞くんだぜ。新地奉行、太田太田太。上から読んでも下から読んでも太田太田太だよ」
太田太が足を踏み出すと、ぱらぱらと家来らが前に進み出た。
黒装束の男たちが次々と匕首を引き抜いた。
「おいおい。ここは笑うところだぜ」
言葉は戯けているが、身構えた太田太には一分の隙もない。(『新地奉行 太田太田太』P.113より)
「第一話」では、旗本連続失踪事件と不妊に悩む夫婦へ処方される秘薬の謎を追い、「第二話」では、大名家同士の相対替(あいたいがえ)という拝領屋敷の交換を巡る疑惑を暴きます。
「第三話」で、太田太は、麹町の煮売り酒屋で馴染みの連中から、今千姫の話を聞きました。人里離れた淋しい場所にある屋敷に住む絶世の美女のお姫様が夜な夜な男を屋敷に引き入れ、その屋敷に足を踏み入れた者は二度と生きて帰られないといいました。
太田太は、府外の王子にあるという、その千姫屋敷に行って、千姫の顔を拝んでくると約束をしてしまいます。
職務上、記録を残すために、大名屋敷であろうと旗本屋敷であろうと、どこのどんな屋敷にも立入御免という、「新地奉行」の役得に着目し、物語の中に屋敷改めをするシチュエーションが巧みに織り込まれています。
太田太は、人情味豊かな快男児です。そして、ひとたび悪を見つけると、敢然と立ち向かう正義感あふれるヒーローでもあります。
新地奉行 太田太田太
著者:山田剛
コスミック・時代文庫
2020年2月25日初版発行
文庫書き下ろし
カバーイラスト:川島健太郎
●目次
第一話 新地奉行、見参!
第二話 相対替
第三話 今千姫
本文317ページ
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『新地奉行 太田太田太』(山田剛・コスミック・時代文庫)