岡本さとるさんの文庫書き下ろし時代小説、『熱血一刀流(一)』(ハルキ文庫)を入手しました。
本書は、小野派一刀流から分かれて、小野派一刀流中西派(中西派一刀流)を興した、江戸中期の剣豪・中西忠太(諱は子定)を主人公とする、人情剣豪小説シリーズの第1作です。
半年ぶりに江戸へ戻った、一刀流の遣い手・中西忠太。剣の師・小野次郎右衛門忠一から「新たな一刀流を切り拓け」と言い遺され、一刀流中西道場を構えることを決めた。門人は、、小野道場を破門された、反抗的で喧嘩早い五人の荒くれと、息子の忠蔵。忠太は、一筋縄ではいかない不器用な弟子たちと共に、剣術を通して人生の妙味と心技体を追求していく。真に上に立つ者の言葉と愛情が心に沁みる。涙あり笑いありの剣豪人情小説、新シリーズ開幕!
(カバー裏の内容紹介より)
宝暦元年(1751)冬、豊前中津藩・奥平家の江戸剣術指南を務める中西忠太は、、国表での出教授を終えて約半年ぶりに江戸に帰ってきました。
霊岸嶋の盛り場の外れにある空地で、剣術稽古用の袋竹刀を手にした武士達が、五人対五人の二組に分かれて喧嘩をしているのに出くわして仲裁に入りました。既に勝負は付いていて、劣勢のほうは小野道場の門人たちでした。優勢の方の話を聞いてみると、彼らも観な小野道場の門人で、忠太が旅に出てから入門した者で道場での稽古方法を巡って先輩たちと争い袋竹刀で打ち合ったとのこと。
荒くれ者ぞろいの五人は、小野道場の師範代・有田十兵衛により破門になりました。
「つまるところ忠蔵、剣は理屈ではないのだ。斬り合うた時、どちらが生き残るか、それに尽きるわけだ」」
小野派一刀流初代の神子上典膳こと、小野次郎右衛門忠明も、善鬼との果し合いで生き残ったゆえに、一刀流を相伝されたのだ。
その当時は、まだ戦国の世で武士が刀を抜いての斬り合いに臨むことは珍しくなかった。今などとは比べようもなく、武士は生死の境目に身を置く覚悟が日頃から出来ていたのであろう。(『熱血一刀流(一)』P.40より)
型、組太刀が稽古の中心となっている小野派一刀流の剣に、疑問を抱いている忠太は、師の小野忠一に請うて、袋太刀での立合稽古をから密かに付けてもらったことがありました。
「父上は、新たな剣術を、あの五人につけてみたくなられたのでは?」
忠蔵はニヤリと笑った。
「わかるか?」
「そのような気がいたしました」
「お前はどう思う?」
「安川達ならおもしろがるでしょうが。あの連中は一筋縄ではいきませぬぞ」
「わかっておる。だが、あの連中は放っておくと、誰彼構わず棒切れで喧嘩をする破落戸に成りかねぬ。あの連中の心意気を生かせて、剣術のおもしろさを、おれは教えてやりたいのだ」(『熱血一刀流(一)』P.52より)
忠太の剣を教えることへの情熱がほとばしります。
剣へのあこがれを持ちながらも、世を拗ねて、小野道場を破門になった、荒れくれた五人に対して、あの手この手で自身が構える中西道場に猛烈に勧誘してゆく様が往年の学園スポーツ青春ドラマのようで、読みどころの一つになっています。
熱血一刀流(一)
著者:岡本さとる
ハルキ文庫
2020年3月18日第一刷発行
文庫書き下ろし
装画:山本祥子
装幀:五十嵐徹(芦澤泰偉事務所)
●目次
第一話 荒くれ達
第二話 峻厳
第三話 練塀小路
本文291ページ
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『熱血一刀流(一)』(岡本さとる・ハルキ文庫)