石川県白山市在住の笛木真作さんから、自費出版された初めて長篇小説、『江戸っ子加賀鳶』(栄光書房)を献本いただきました。
本書は、百万石加賀前田家が江戸の町と人を守るために組織化した、町人による火消組織、加賀鳶の誕生秘話を描いた長篇時代小説です。
著者の笛木さんは金沢出身で、本書のあとがきで、江戸っ子たちによる加賀鳶の精神が今も金沢の消防に携わる人々に脈々と受け継がれた、今も守り続けていることに感動したことを執筆動機の一つとされています。
江戸の町と人を守るのは俺たちでぇ! 百万石大名前田家の加賀鳶と幕府定火消の臥煙との誇りと意地をかえた壮絶な消口争い!
(カバー帯のの内容紹介より)
本書は、享保三年(1718)秋も深まった九月から始まります。
店火消の安五郎と新吉は、火事場で消口を取りましたが、後から駆けつけた定火消により追い立てられました。燃え盛る長屋には、幼い子供が取り残されていましたが、定火消の与力や臥煙たちによって助けに行くことを阻まれて見殺しにしてしまいました。
「今日のことは、金輪際忘れられねえ! 臥煙の奴らめ、今に見ていろ。畜生、臥煙がどう偉いってえんだ。奴ら、侍の倅だから偉いのか。俺たちと同じ火消なのに、いってえどこが違うってえんでえ。新吉、俺たち二人、歯を喰いしばってでも、もっともっと強え火消になってみせようぜ」
と安五郎は、洟をすすり上げながら口を真一文字に結んだ。すると、新吉は、頬に溢れる泪を拳で拭い、叫んだ。
「そうだ、安兄いの云う通りだ。誰にも負けねえ強え火消になって、臥煙の奴らを見返してやるんでえ。この江戸の町を、江戸の人々を、火事から、きっと、きっと守ってみせるぜ!」(『江戸っ子加賀鳶』P.12より)
安五郎と新吉は、加賀藩五代藩主前田綱紀が江戸で募集した町人火消組に応募し、火消人足として採用されます。
火消の訓練や加賀藩における加賀鳶の位置づけなど興味深い描写の連続で、物語に引き込まれていきます。
将軍吉宗に大岡越前守、前田綱紀に奥村長左衛門、そして安五郎ら加賀鳶、また定火消に臥煙、それに政右衛門や文蔵たち町火消など、彼らは、この後、年中行事の如く頻々と起きる江戸の大火との闘いに、立場の違いを越えて、血みどろになって邁進して行くこととなる。
(『江戸っ子加賀鳶』P.250より)
本書では、加賀鳶に加わった二人の若者の成長とともに、定火消の消口争い(火消人足同士による消火活動時の功名争い)、享保の改革で行われた江戸町火消の創設なども描かれています。
今村翔吾さんの『夜哭烏 羽州ぼろ鳶組』で、加賀鳶ファンになった方にもおすすめです。
江戸っ子加賀鳶
著者:笛木真作
栄光書房
2020年2月1日発行
自費出版
●目次
なし
本文255ページ
■栄光書房
『江戸っ子加賀鳶』(笛木真作・栄光書房)
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『夜哭烏 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫)