風野真知雄さんの文庫書き下ろし時代小説、『潜入 味見方同心(一) 恋のぬるぬる膳』(講談社文庫)を入手しました。
大人気の「隠密 味見方同心」シリーズが全9巻で完結して淋しく思っていたところ、待望の第二シーズン「潜入」篇の開幕です。
味見方の魚之進は南町奉行から密命を受ける。将軍暗殺計画の気配があり、毒見係の鬼役とは別に、城内に忍び寄る悪事を阻止してほしいというのだ。気弱な魚之進にそんな大役が務まるのか。死んだ兄の後家・お静への思いが募るなか、魚之進は美味で怪しい江戸の食べ物を追う! 大人気時代小説、新シリーズ開幕。
(カバー裏の内容紹介より)
味見方とは、江戸市中の食いものの動向を探るために、水戸藩の家老たちが町奉行所に働きかけてつくらせた新しい役目です。
南町奉行所味見方同心だった兄波之進が亡くなり、跡を継いだ弟の月浦魚之進。実家に戻った義姉・お静への思いが諦めきれず、お静への思いを忘れるべく、お役目に集中することに。
「ぬるぬる膳というのは知ってるか?」
「ああ、深川にある店ですよね。男女の客で大賑わいだとか」
本所深川回り同心の渡辺団右衛門から聞いていた。なかなか箸で掴めない料理ばかり出て、それが受けているのだと。
だいたい、ぬるぬるする食いものは精がつくと言われるので、惚れ合った男女が喜んで食べるのは当然かもしれない。
「行ったことは?」
「まだないです。近々、行かなきゃと思っていたのですが」(『潜入 味見方同心(一) 恋のぬるぬる膳』P.13より)
富岡八幡宮の近くで、ぬるぬる膳を出す評判の店の主が何者かに刺殺されるという事件が起こり、魚之進は先輩同心の市川一角とともに深川の犯行現場へ向かいました。
「お城には毒見役はおられる。外出時もついて回る。だが、食と悪事の関わりについて、経験もなければ知識もない。敵の動向を見破るためにも、ぜひ味見方を城に差し向けてもらいたいと、こうおっしゃってな」
「お城に……」(『潜入 味見方同心(一) 恋のぬるぬる膳』P.13より)
気弱な性格ながら、持ち前の推理力で事件を鮮やかに解決した魚之進は、翌日、南町奉行筒井和泉守の私邸に呼ばれました。将軍家斉に暗殺計画があり、魚之進に江戸城に潜入してほしいと命じられます。
家斉に信頼されている旗本の中野石翁が、魚之進の手腕を高く買っていて、推薦したのだといいます。
「このご時世に美食三昧」とばかりに、今回も一風変わった江戸の料理が次々に登場します。さらにスケールが大きな活躍の舞台で、魚之進がどんな活躍を見せるのか、目が離せません。
潜入 味見方同心(一) 恋のぬるぬる膳
著者:風野真知雄
講談社文庫
2020年3月13日第一刷発行
カバー装画:宇野信哉
カバーデザイン:芦澤泰偉
●目次
第一話 ぬるぬる膳
第二話 ひげ抜きどじょう
第三話 婆子丼
第四話 歯型豆腐
本文257ページ
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『潜入 味見方同心(一) 恋のぬるぬる膳』(風野真知雄・講談社文庫)
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