柏田道夫さんの長編伝奇時代小説、『桃鬼城奇譚(とうきじょうきたん)』(双葉文庫)を入手しました。
第2回歴史群像大賞受賞作「桃鬼城伝奇」(1995年9月に同名で学習研究社より刊行)を加筆修正し、改題した作品の初の文庫化です。
昔話「桃太郎」の話をモチーフにしながらも、戦国時代の山陽地方を舞台に大胆に解釈して、大人が楽しめる時代エンターテインメント小説に仕上げています。
時は戦国――。桃鬼城落城の折に生を受けた太郎丸は、城主であった父桃乃木道政によって一振りの太刀と文とともに川に流される。かつての道政の軍師片岡恫年のもとで修行を積み立派な若者に育っていた太郎丸だが、平穏だった故郷が突如現れた鬼たちに蹂躙され、復讐の旅に出る。落城以来、鬼の住処となっていた桃鬼城を目指す太郎丸は、旅の途中で知り合った仲間と怨念渦巻く敵地に乗り込むのだが――。史上最強の鬼退治! 第二回歴史群像大賞を受賞した圧巻の戦国伝奇ファンタジー、待望の初文庫化。
(カバー裏の内容紹介より)
物語は、山陽地方の桃鬼城城主桃乃木道政が側室の桂の方の裏切りにより、桂の方の兄三宅多門の軍勢に攻められて落城するところから始まります。
道政の正室・清の方は臨月で、落城の混乱の中で陰陽師の細川鉄心が取り上げた子を背に、道政とその侍大将赤垣馬之助は、城から馬で落ち延びます。
稲妻があたりを一瞬だけ、真昼の明るさに変えた。
道政と馬之助はそこに異様なものを見た。
巨大な化け物が、雑兵を頭の上に掲げて、二つに引きちぎっている。
化け物の背丈は、普通の人間のゆうに倍はあった。そして足元には、ばらばらになったいくつもの死体が転がっていた。
「おのれ妖怪!」
道政と馬之助は起き上がると、手にした刀を振り上げて構えた。化け物が二人の姿を認めて、駆けてきた。駆ける時だけ獣のように四つ足になっている。
狼の跳躍を見せて、闇の中で巨大な化け物が道政に襲いかかった。
(『桃鬼城奇譚』P.45より)
冒頭からジェットコースターのような目まぐるしいストーリー展開の後、宮部みゆきさんの『荒神』を想起させるような化け物の登場です。
化け物との戦いで傷ついた道政は、小さな竹で組んだ筏に乗せた桃形の兜に、生まれたばかりの赤子の体を据えて、「わが子よ。生きて城を取り戻せ」と最後の言葉を告げて、小川に流しました。
赤子は、山の奥深くにある桃の里に流れ着き、かつて道政の軍師をつとめた片岡恫年とその妻はつによって育てられました。十五年が経ち、太郎丸という、美しさと気高さを備え文武に優れた若者に成長しました。
やがて、昔話「桃太郎」と同様に、太郎丸が鬼退治に行くという話になり、小猿、犬丸、雉姫といった仲間たちも加わります。
誰でも知っている話をどのように盛って膨らませていくのか、その手腕の見事さに、ワクワクドキドキが止まりません。
この物語が25年の雌伏の時を経て、手にとりやすい、文庫として刊行されたのはうれしい限りです。
カバーデザイン:鳥井和昌
カバーイラストレーション:鈴木康士
●目次
第一章 誕生
第二章 桃の実、流る
第三章 猪狩り
第四章 殺戮の里
第五章 出立
第六章 鬼面党
第七章 隠し砦
第八章 侵入
第九章 北斗丸の星
第十章 鏃
第十一章 脱出
第十二章 鬼の伝
第十三章 人が造る鬼
第十四章 告白
第十五章 鬼三匹
第十六章 桔梗花
第十七章 夜刀ヶ原
第十八章 地獄の鍛冶場
第十九章 鬼ヶ島
第二十章 契り
第二十一章 決戦の時
第二十二章 黄金の蔵
第二十三章 春、そして……
あとがき
文庫版あとがき
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『桃鬼城奇譚』(柏田道夫・双葉文庫)
『荒神』(宮部みゆき・新潮文庫)