西條奈加さんの長編時代小説、『わかれ縁(えにし)』を入手しました。
浮気と借金を繰り返す最低亭主から逃げた女房は、離縁できるのか?
江戸の離婚模様というと、田牧大和さんの『縁切寺お助け帖』など、幕府公認の縁切寺、鎌倉・東慶寺へ駆け込む女性たちを描いた時代小説が思い浮かびます。
結婚して五年、定職につかず浮気と借金を繰り返す夫に絶望した絵乃は、身ひとつで家を飛び出し、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」に流れ着く。
夫との離縁を望むも依頼できるだけの金を持たない彼女は、女将の機転で狸穴屋の手代として働くことに。
果たして絵乃は一筋縄ではいかない依頼を解決しながら、念願の離縁を果たすことができるのか!?
(カバー帯の内容紹介より)
主人公の絵乃は、定職につかず浮気と借金を繰り返す夫・富次郎のせいで、三軒目の働き口から暇を言い渡されてしまいます。借金の形に、苦界に沈められてもおかしくない、ギリギリの縁にいました。
絶望の思いを抱いて、浅草御門へ帰る往来で、馬喰町二丁目の旅籠の手代、椋郎とぶつかってしまいます。
「五年ものあいだ、よく辛抱なさいやしたね。なかなかできるものじゃ、ありやせん」
「……え?」
「お絵乃さんは、十二分にご亭主に尽くしなすった。情の深い、できた女房でさ」
安い同情だとわかっていても、他愛なく涙があふれた。物思いという泥水を、縁まで張った桶のようなものだ。小石ひとつで呆気なくあふれる。(『わかれ縁』P.19より)
椋郎はぶつかって転んだ絵乃を介抱しながら、絵乃の身の上話を聞きました。そして、自身が離縁を得手する公事宿『狸穴屋』の手代であることを明かし、絵乃に亭主との離縁を勧めます。
しかしながら、そこには大きな問題が。
離縁には十両という大金がかかるとのこと。
絵乃は、最低の亭主から逃げて、離縁請負いの公事宿で働くことで、自分の人生を取り戻せるのか? 江戸の離婚事情がわかる、人情時代小説の始まりです。
装画:田中海帆
装丁:野中深雪
●目次
わかれ縁
二三四の諍い
双方離縁
錦蔦
思案橋
ふたたびの縁
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『わかれ縁』(西條奈加・文藝春秋)