森川楓子(もりかわふうこ)さんの長編時代小説、『国芳猫草紙 おひなとおこま』(宝島社文庫)を入手しました。
3年余り前、2016年12月20日第1刷発行の時代ミステリーです。
PHP文芸文庫の2月の新刊、『ねこだまり 〈猫〉時代小説傑作選』の執筆陣に森川楓子さんが名を連ねているのを見て、ほかの作品を読んでみたくなりました。
しかも題材も、大好きな浮世絵師歌川国芳が登場するということで楽しみです。
人気浮世絵師・歌川国芳の一人娘とりが誘拐された。子守兼弟子のおひなはとり探しに奔走する最中、謎の薬師に薦められた薬を飲み、猫の言葉がわかるようになってしまう。国芳の愛猫おこまの活躍で、とりがわる武家屋敷にさらわれたことを突き止めるが、その屋敷の奥方の首無し死体が見つかり、江戸中を騒がす大事件に……。“猫の網”からの情報を頼りに、一人と一匹が事件の真相に迫る!
(本書カバー裏紹介より)
本書の主人公おひなは、日本橋の鰹節問屋の娘。幼いころから絵を描くのが大好きで、団扇絵に描かれた猫の絵が好きで、その作者の歌川国芳に押しかけ弟子となりました。
ますは、どんな絵を描くのか見せてみな……と言った国芳に、おひなははにかみながら画帖を差し出した。
――あんまり、上手ではないのですが。
画帖を開いたときの師匠の顔は、今でも忘れられない。あれは、脳天を思いきりぶん殴られた人の顔だった。
しかし、画帖をめくるうちに、国芳の顔がほころび始めた。しまいには、大笑いだ。
――おもしれェ子だなァ。よし、ひな。めェは今日からこの国芳の弟子だ。
天にも上る心持ちだった。(『国芳猫草紙 おひなとおこま』P.37より)
おひなの絵は、周りからは何を描いたのかわかってもらえないほど、下手ぶり。しかも弟子入りしてからも、さっぱり上達せず、「このままでは破門される」というあせりから、家事を手伝うようになっていました。弟子としてはさっぱりでも、飯炊きや子守りとして、国芳宅で居場所を作ろうとしていました。
国芳宅には、体の大きなオス猫くま、年寄り猫のとく、親猫からはぐれて衰弱死しかけていたところを国芳に拾われたメス猫のおこま、不細工な灰色のオス猫いち、落ち着きのないメス猫あま、すばしっこいオス猫きじ……といった猫たちが居着いていました。
おひなは、今ではすっかり元気になって美猫に成長した、おこまを一番可愛く思っていました。
そんなある日、国芳の一人娘で赤ん坊の「とり」をおぶって散歩に出たおひなは、編笠を被った何者かに襲われて、とりをかどわかされてしまいます。
大失態を犯したおひなは、不思議な薬を飲んで猫語がわかるようになり、美猫のおこまを相棒にして、とりの行方を追います。
少女おひなと愛猫おこまの冒険がはじまります。不思議なストーリー展開に引き込まれていきます。
国芳の娘、とり(登鯉)を主人公にした時代小説に、河治和香さんの『国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ』があります。当世風でお侠な登鯉が魅力的で、おすすめの大江戸ガールズ小説です。
●目次
なし
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『国芳猫草紙 おひなとおこま』(森川楓子・宝島社文庫)
『ねこだまり 〈猫〉時代小説傑作選』(細谷正充編・PHP文芸文庫)
『国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ』(河治和香・小学館文庫)