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品川宿の宿屋で働く、お勝手女中見習いの少女の成長物語

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お勝手のあん柴田よしきさんの長編時代小説、『お勝手のあん』(時代小説文庫・ハルキ文庫)を入手しました。

著者の柴田さんは、女性刑事が活躍するハードボイルド警察小説『RIKO―女神の永遠―』で、第15回横溝正史賞受賞し、近著では『風のベーコンサンド 高原カフェ日誌』などカフェレシピと心温まる話が味わえるカフェ小説を発表しています。

本作が、時代小説デビュー作です。

品川宿の老舗宿屋「紅屋」を営む吉次郎は、二年ぶりの長旅から、見知らぬ女童を連れ帰ってきた。吉次郎は、女童・おやすの類まれな嗅覚の才に気づき、「紅屋」のお勝手女中見習いとして引き取ることに――。拾って貰った幸運をかみしめ、ゆるされるなら一生ここにいたいと、懸命に働くおやす。研究熱心な料理人・政一と、厳しくとも優しい女中頭・おしげのもと、年下の奉公人・勘平、「百足屋」のお嬢さま・お小夜とともに日々を過ごすなかで、人間として、女性として、料理人として成長していく。柴田よしき、初の時代小説シリーズ第一弾!
(本書カバー裏紹介より)

本書の主人公は女童のおやすです。
八歳のときに、親に口入屋に売られて、神奈川宿の宿屋に送り込まれたところ、宿屋では力仕事のできる小僧が欲しかったということで、間違ってやってきたおやすを持て余したいました。

宿屋の主人から事情を聞いた吉次郎は、いたずら心で試した栗の良し悪しを見抜いたおやすの才と利発さに感心し、品川宿にある自分の宿屋「紅屋」に連れて帰りました。

それから六年が経ち、やすは十四歳になっていて、「紅屋」でお勝手の女中見習いとして雑用に追われていました。

「おたみに仕事を代われと言われた時に、ちゃんとそれをおさきかあたしに言うべきでした」
「告げ口はしたくなかったんだろう」
「告げ口をしないといけないんです。告げ口をして、あとでおたみに憎まれたり折檻されたとしても、そうするのが奉公人のつとめです。自分の身可愛さに悪いことに荷担する、それに慣れてしまったら、しまいには自分から悪いことを考えるようになる。そういうもんです」
 やすは顔を上げておしげさんを見た。おしげさんの言うとおりだ、と思った。

(『お勝手のあん』P.41より)

やすは、男と会うために勤めを外れた部屋付き女中のおたみに頼まれて、朝餉の膳を部屋に運ぶ仕事を請け負いました。そこで、やすはその部屋の客に対して親切心からあることをしました。ところが、後で部屋付きの女中頭のおしげから、何をやったのかを聞かれ注意を受けました。

おしげの言葉で、自分に手柄を誇りたいような思いがあったことに気付き、「それは卑しいことだった」と振り返られるやす。日常の中でもあるようなちょっとしたことですが、印象深いシーンになっています。

本書を通じて、やすの成長を温かく見守っていきたい気持ちになりました。

●目次
一 神奈川宿
二 お勝手のやす
三 下魚の味
四 よもぎ餅
五 お嬢さま
六 なべ先生
七 おしげさんのお粥
八 冷めた天ぷら
九 茜色の時
十 勘平とたけのこ
十一 秘めた想い
十二 できない約束
十三 夜中の湯漬け
十四 希望

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『お勝手のあん』(柴田よしき・時代小説文庫・ハルキ文庫)

柴田よしき|時代小説ガイド
柴田よしき|しばたよしき|作家 東京生まれ。 1995年、『RIKO―女神の永遠―』で第15回横溝正史賞受賞。 ■時代小説SHOW 投稿記事 ■著者のホームページ・SNS 柴田よしき@shibatay | Twitter amzn_asso...