新美健(にいみけん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『六莫迦記(ろくばかき) これが本所の穀潰し』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を献本いただきました。
ハヤカワ時代ミステリ文庫の創刊第3弾は、誉田龍一さんの『よろず屋お市 深川事件帖2 親子の情』と、本作品の2タイトルになります。
小普請組に属す小身武家の葛木家には、男の六ツ子がいる。みな莫迦である。妄想癖の逸朗、傾奇者の雉朗、剣を振り回す佐武朗、死狂いを目指す不穏な刺朗、金金儲けが大好きな呉朗、遊び人になりたい碌朗。悩んだ父親は宣言する。
莫迦どもの中で一番ましな者に家督をゆずる。それ以外の五人は座敷牢に閉じ込める! 慌てた六ツ子は我こそ跡継ぎにと主張し、突飛な行動に……呆れて笑いがとまらない、ろくでなし大騒動小説。
(本書カバー裏の紹介文より)
妄想莫迦の長男逸朗、役者莫迦の次男雉朗、剣術莫迦の三男佐武朗、葉隠莫迦の四男刺朗、金儲け莫迦の五男呉朗、町人かぶれ莫迦の末弟碌朗の六ツ子は、旗本とも御家人ともつかない、二百石取りの小身幕臣・葛木主水(かつらぎもんど)と妙の間に北本所の外れの屋敷で生まれました。
本所界隈でも面妖な話として、消えずの行灯、置いてけ堀、足洗い屋敷、送り提灯、狸囃子、送りの拍子木、片葉の蘆などの本所七不思議に加えて、〈北本所外れの六ツ子〉が加えられたとか。
とにかく、六ツ子の莫迦さ加減がサイコーです。
売りたいほどに暇を持て余している六ツ子は、〈奥山〉で六人そろって滑稽な河童姿に扮する大道芸で町人から小銭をせしめることを好み、武士の矜持など欠片もありません。
そんな六ツ子に、父から告げられた家督選びの方針。
家督は長男の自分が継ぐものと思っていた逸朗、家督を継ぐ者以外の五人は座敷牢に閉じ込めると知った五人の弟たち、六ツ子の大騒動に拍車がかかります。
「ならば、愚弟でもよ、おまえたちの夢を問いたい。もし万事の願いが叶うとすれば、何者にならんと欲するや?」
「身共は役者になりたい」と次男の雉朗。
「日本一の剣士になりたい」と三男の佐武朗。
「ああ……猫になりたい……」と四男の刺朗。
「勘定奉行になりたい」と五男の呉朗。
「おいらあ、遊び人になりてえ」と末弟の碌朗。
なんとも愚にもつかない答えが並んだものだ。(『六莫迦記 これが本所の穀潰し』P.30より)
本書は、ミステリ色は薄いですが、ユーモア、とりわけドタバタ劇が楽しめる、笑えるスラプスティック時代小説です。
往年のハヤカワミステリのユーモア小説というと、『踊る黄金像』など多くのミステリ作品を発表した、ドナルド・E・ウェストレイク(Donald E. Westlake)を想起します。
2020年末には本書の第2巻も刊行されシリーズ化されるとのこと。肩の凝らない、笑いが止まらない、スラプスティック度がエスカレートした続編を楽しみにしています。
目次
序 六ツ子は面妖なり
第一幕 逸朗の莫迦
第二幕 雉朗の莫迦
第三幕 佐武朗の莫迦
第四幕 刺朗の莫迦
第五幕 呉朗の莫迦
第六幕 碌朗の莫迦
結 六ツ子の大叛旗
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『六莫迦記 これが本所の穀潰し』(新美健・ハヤカワ時代ミステリ文庫)
『踊る黄金像』Kindle版(ドナルド E ウェストレイク・木村仁良訳・早川書房)