篠綾子さんの文庫書き下ろし長編時代小説、『岐山の蝶(きざんのちょう)』(集英社文庫)を入手しました。
斎藤道三の娘帰蝶は、美濃の姫ということで「濃姫」と呼ばれることがあります。帰蝶の母・小見の方は明智の一族で、光秀は甥ともいわれています。そのため光秀と帰蝶はいとこ同士とされています。
「美濃の蝮」の異名で恐れられた斎藤道三の娘・帰蝶は、密かに従兄・明智光秀に好意を寄せていた。しかし、隣国である尾張との衝突を避けるため、織田信長との縁談が進められることに、故郷に心を残しつつ嫁いだ帰蝶、信長、そして光秀……それぞれの運命は複雑に絡みあい、「本能寺の変」へと繋がっていく――。
史実を大胆に換骨奪胎し、強く、そして美しく生き抜いた女性を鮮やかに描く時代小説。
(本書カバー裏の紹介文より)
著者は、「更紗屋おりん雛形帖」シリーズや「絵草紙屋万葉堂」シリーズなど、江戸で仕事に恋に全力投球するヒロインを描いた時代小説で活躍されていますが、上杉謙信が女性だったという設定で描く『女人謙信』など斬新な視点から描いた戦国時代小説も書かれています。
帰蝶より七つ年上の従兄明智十兵衛光秀は横笛が上手く、帰蝶の鼓に合わせてよく笛を吹いてくれた。帰蝶が仕損じれば、さりげなく横笛を合わせてくれる優しい従兄だ。光秀は決して帰蝶の失敗を咎めたりしない。
だが、嘘を口にできない光秀は、口先だけで褒めることもなかった。
その光秀がふた月ほど前、
「姫はお上手になられた」
と初めて言ってくれた。その言葉に、帰蝶は胸がいっぱいになった。(『岐山の蝶』P.7より)
帰蝶にとって、従兄の光秀は密かに想いを寄せる相手でした。ところが、尾張の武将・織田信秀の跡継ぎである信長と帰蝶との間に縁談が持ち上がり、道三はこの話を受け入れ、昨晩帰蝶にそれが正式に伝えられました。
はっきりと約束を交わしたわけではないなかったが、光秀を裏切ってしまったような居心地の悪さを抱えながら信長に嫁ぐ帰蝶。
そして、帰蝶の母、小見の方にも人に言えない秘密が……。
合戦(いくさ)シーンが中心の戦国小説とは一味違う、斬新な歴史解釈とともに、人々の情愛や運命、生き様に光を当てた女性目線で描かれる戦国ロマンを堪能したいと思います。
目次
一章 金華山の夕陽
二章 翼ある女
三章 敦盛
四章 放浪の士
五章 女たちの宿世
六章 首途
七章 京の女商人
八章 天下布武
九章 夢幻のごとくなり
十章 岐山の蝶
解説 末國善己
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『岐山の蝶』(篠綾子・集英社文庫)
『女人謙信』(篠綾子・文芸社文庫)