谷津矢車(やつやぐるま)さんの戦国時代小説、『某(それがし)には策があり申す 島左近の野望』(時代小説文庫)を入手しました。
「治部少(三成)に過ぎたるものが二つあり。島の左近と佐和山の城」と謳われた猛将島左近を主人公にした戦国時代小説です。
当時四万石だった三成が、半分の二万石の俸禄という破格の待遇で左近を召し抱えたという逸話が残っています。戦下手な三成に代わり石田家の武を一手に引き受ける稀代のいくさ人であり、かつ主君を支える義の人として、知られています。
「天下の陣借り武者、島左近、死ぬまで治部殿の陣借り仕る」――筒井順慶の重臣だった島左近は、順慶亡き後、筒井家とうまくいかず出奔。武名高き左近には仕官の話が数多く舞い込むが、もう主君に仕えるのはこりごりだと、陣借り(雇われ)という形で、豊臣秀長、蒲生氏郷、そして運命の石田三成の客将となる。大戦に魅入られた猛将は、天下を二分する関ヶ原の戦いでその実力を発揮する! 従来の「義の人」のイメージを塗り替えた新たな島左近。期待の歴史作家による渾身の作品、待望の文庫化。
(カバー裏の紹介文より)
さて、本書の「序」で、筒井順慶の家臣だった左近は、天王山で戦う羽柴軍と明智軍の戦いを洞ヶ峠と呼ばれる小さな山で動かずに戦況を見守っていました。
「この島左近が、なぜ戦場で働いておらぬのだ。信玄公直伝の武略が泣く」 もっと大きな場で働いてみたい。大和の小競り合いではなく、天下に聞こえる大戦で。
(『某には策があり申す 島左近の野望』P.12より)
羽柴と明智による山崎の戦いの後に起こった、羽柴と徳川の大戦の最中に、主君順慶が亡くなり、筒井家を離れていた左近のもとに、秀吉の弟豊臣秀長が訪れました。五千石で仕官しないかという誘いに、主君に仕えるのはこりごちで、雇われ(陣借り)を望みます。
そして、もう一つ条件を挙げます。
「某は、天下の大戦に出とうござる。秀長様にお伺いしたい。秀長様の配下におれば、天下の大戦に出ることはでき申すか」
(『某には策があり申す 島左近の野望』P.34より)
秀長軍の客将として左近の戦の日々が始まります。
若き日の藤堂与右衛門高虎や雑賀孫市との交流も面白いです。
本書は、2017年6月に、角川春樹事務所より刊行された単行本『某には策があり申す 島左近の野望』を加筆修正したものです。
左近を描いた時代小説では、火坂雅志さんの遺作となった『左近』が未完ながらも“いくさ人”ぶりが活写されていておすすめです。
また、隆慶一郎さんの『影武者徳川家康』でも、左近は重要な役割を演じています。
目次
序
第一話 豊臣秀長陣借り編
第二話 蒲生氏郷陣借り編
第三話 石田治部食客編
第四話 石田治部陣借り前編
第五話 石田治部陣借り後編
終
解説 細谷正充
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『某には策があり申す 島左近の野望』(谷津矢車・時代小説文庫)
『左近(上)』(火坂雅志・PHP文芸文庫)
『影武者徳川家康(上)』(隆慶一郎・新潮文庫)