上田秀人さんの文庫書き下ろし時代小説シリーズの最新作、『愚劣 百万石の留守居役(十四)』(講談社文庫)を入手しました。
加賀藩前田家の若き留守居役瀬能数馬が、幕府の外様潰しや藩内の権力争い、他藩との悶着から百万石を守り抜くために奮闘する、人気エンターテインメント時代小説シリーズの第14弾です。
留守居役は、主君の留守中に諸事を采配する役目で、通常、人脈をもつ世慣れた家臣がつとめていました。後年、幕府や他藩との交渉が主な役割に代わり、幕府の意向をいち早く察知して、外様潰しの施策から藩を守る役割が重くなりました。
将軍綱吉との謁見後も江戸に留まる、百万石の宿老・本多政長の動向を探る者たちがうごめき出す。政長に随伴した数馬、本多家と吉原の累代からの関わりに驚嘆する。宿老不在の加賀でも、あらたな難題が。急遽たずねてきた越前松平家の重鎮が、予想をはるかに超える要求をつきつけてきた!
(カバー裏の紹介文より)
前作『舌戦』で、将軍綱吉と謁見した加賀藩筆頭宿老の本多政長は、その後も江戸に留まります。
政長の娘・琴と仮祝言を挙げた数馬は、家康の謀臣本多正信を先祖にもち「堂々たる隠密」と呼ばれている義父から藩を守るための交渉術を学んでいきます。
「今更言うまでもないが、本多の家は呪われている。神君家康公の腹心、幼なじみと讃えられた本多佐渡守は、ほぼ加賀の本多だけといえる。本家は謂れなき謀叛で潰され、分家は吾が家を除き、小身一つだけ。わかるか、あの本多正信の血筋で、大名は一家もない」
「…………」
「これはなぞか、最初にそなたと会ったときに、話をしたな」
「本多は徳川の闇を知りすぎた」
「知りすぎたのではない、闇を生み出したのよ。もっとも、その闇のお陰で徳川は天下人になった」(『愚劣 百万石の留守居役(十四)』P.23より)
闇を知る政長が、江戸で数馬にどのようなことを教えていくのか。また、政長が不在にする国元の金沢でも新たな火種が……。
タイトルの「愚劣」の意味するものとともに、俄然興味が湧いてきます。
●目次
第一章 勝者と敗者
第二章 影と陰
第三章 血筋の辛さ
第四章 暗夜行
第五章 義父、ふたり
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『愚劣 百万石の留守居役(十四)』 (上田秀人・講談社文庫)
『舌戦 百万石の留守居役(十三)』 (上田秀人・講談社文庫)
『波乱 百万石の留守居役(一)』 (上田秀人・講談社文庫)