仁木英之(にきひでゆき)さんの青春時代活劇、『幕末三舟青雲録 鉄舟の剣』(実業之日本社文庫)を入手しました。
幕末三舟とは、号に「舟」の字を用いた三人の幕臣、すなわち、勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟をいいます。
勝海舟は時代劇や時代小説でお馴染みで、山岡鉄舟は海舟の命で西郷隆盛と江戸城開城の事前交渉を行ったことで知られています。ところが、高橋泥舟については槍の名手で、
鉄舟の義兄という以外はどういう業績があった人かよくわかりません。
飛騨の代官の息子・小野鉄太郎(後の山岡鉄舟)は父の死を機に、弟らとともに江戸に向うが、他家に養子になるための持参金三千両を狙った賊に襲撃を受ける。江戸では旧知の勝麟太郎(後の勝海舟)、山岡謙三郎(後の高橋泥舟)と再会、剣や槍の修行に励むが、謎の集団「コクトウグミ」と死闘を繰り広げることに。幕末三舟の若き日を描く時代活劇!。
(カバー裏の紹介文より)
本書は、鉄太郎こと山岡鉄舟を中心に幕末三舟の若き無名時代を描いた青春時代活劇です。
「麟太郎さんといると、いつも周りが騒がしい気がしますよ」
「俺の周りが騒がしいのではなく、騒がしい中に俺が踏み入っていくからだよ。それを鉄太郎と謙三郎が踏みしめて、静かにさせていく。いつもそうだった……。謙三郎は来たか?」
「いえ……」
「あいつらしいな。ここは淀橋、あいつは矢来町でそれほど遠くないというのに」
(『幕末三舟青雲録 鉄舟の剣』P.7より)
物語は、明治二十一年(1888)七月、臨終間際の山岡鉄舟のもとに、勝海舟が訪れたところから始まります。鉄舟は三人が出会った頃の話をし出します……。
海舟の話に出てきた淀橋は西新宿で、矢来町は神楽坂上に位置し新潮社があります。ともに現在は新宿区になります。
さて鉄太郎の生まれた小野家は、幕府草創期の剣豪、神子上典膳の流れをくむ旗本の庶流で、父の小野朝右衛門は飛騨高山郡代をつとめていました。興味深いのは実母の磯が鹿島神宮神官の一族に生まれ、剣聖・塚原卜伝の子孫。鉄太郎は、まさに剣豪となるべくして生まれてきたような男です。
幕末三舟は、みな剣や槍の名手としても知られています。若き日の修行時代のどのような活劇が描かれていくのか、楽しみでなりません。
本書は、2016年7月、『三舟、奔る!』(実業之日本社刊)を改題したものです。
●目次
第一章 天下の風
第二章 黒き刀
第三章 葛城
第四章 乱の男
第五章 不撓の槍
第六章 不動の剣
第七章 三舟、出帆
解説 末國善己
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『幕末三舟青雲録 鉄舟の剣』 (仁木英之・実業之日本社文庫)