篠綾子さんの文庫書き下ろし時代小説、『絵草紙屋万葉堂 堅香子の花』(小学館文庫)を入手しました。
家業の絵草紙屋万葉堂を立て直すために、読売(瓦版)の記者を始めた万葉堂の娘さつきの仕事と恋を描くシリーズ第四作にして最終巻です。出生の秘密、盗賊団「蛇の目」の謎、幕閣を揺るがす書物の存在、初めての恋など、さまざまに絡み合った物語は終幕へと向かいます。
さつきたちの前から突然姿を消した駒三が一年ぶりに万葉堂に帰ってきた。駒三は自分がかつて「蛇の目」のであったこと、また、蛇の目が平野屋から盗み出したある重大な書物についてさつきたちに話をする。
ちょうどその頃、その肉が万病に効くという「人魚」の噂が江戸に広まる。体調を崩したおよねの身を案じる良心は喜重郎たいにその探索を依頼するのだが――。書物に記された暗号を読み解くことで、自分の人生を翻弄したある重大な陰謀を明らかにしたさつきは、己れの信じる道を読売で貫こうと決意する。そして物語は感動の終幕を迎える!
(カバー帯の紹介文より)
本シリーズの面白さの一つは、田沼意次・意知の父子をはじめ、伝蔵こと若き日の山東京伝、その妹で黒鳶式部の筆名をもつ女戯作者のおよね、蘭学者で医師の大槻玄沢、『赤蝦夷風説考』の筆者工藤平助の娘のあや子など、同時代の興味深い人物たちが登場し、さつきにかかわっていくところにあります。
本書でも、蝦夷地を探検した最上徳内と、戯作者の竹杖為軽(たけつえのすがる)が登場します。
為軽は、医師で蘭学者の桂川甫周の弟で、戯作者として平賀源内の門人であり、医師森島中良(もりしまちゅうりょう)としても活躍した人物です。
「そうだなあ。読売がどういう形になるかはともかく、売り方は変わるかもしれないと、私は思うよ」
と、竹杖為軽は言い出した。
「売り方?」
さつきと喜重郎は、二人同時に意外そうな声を発していた。
「これは、『従夫以来記(それからいらいき)』にも書きましたが、商いをする側と客の在り方は、これから大きく変わっていくと、私は思っているんです」
(『絵草紙屋万葉堂 堅香子の花』P.98より)
タイトルにある「堅香子」は、片栗粉の原料となる北国に咲く花のことで、大伴家持の歌(「もののふの八十娘子らが汲みまがふ 寺井の上の堅香子の花」)は万葉集にも収録されています。
●目次
第一話 書物の行方
第二話 長寿の妙薬
第三話 維新の予言
第四話 見果てぬ北の地
終話
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『絵草紙屋万葉堂 鉢植えの梅』 (篠綾子・小学館文庫)(第1作)
『絵草紙屋万葉堂 初春の雪』 (篠綾子・小学館文庫)(第2作)
『絵草紙屋万葉堂 揚げ雲雀』 (篠綾子・小学館文庫)(第3作)
『絵草紙屋万葉堂 堅香子の花』 (篠綾子・小学館文庫)(第4作)