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夫を支え、家族を守る、勝海舟の妻おたみの奮闘記

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おたみ海舟 恋仲植松三十里(うえまつみどり)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おたみ海舟 恋仲』(小学館文庫)を紹介します。

本書は、妻のおたみの視点から、勝海舟夫婦の波瀾万丈の生涯を描く、文庫書き下ろしシリーズの第1作。
多くの歴史時代小説とは一味違う、偉人海舟の日常と生活を描いた小説です。

辰巳芸者のおたみは、呼ばれた席で幼馴染みの勝麟太郎と再会。蘭学を修業中の麟太郎は、おたみに惚れて一緒になろうと口説いてくる。旗本との結婚など無理な話と諦めていたおたみの所に、麟太郎の父小吉がやってきた。小吉に気に入られ、姑となるお信にはいい顔をされなかったが、二人は祝言をあげ、溜池のあばら家で新生活を始めたが…。蘭和辞典「ヅーフ・ハルマ」を高額で借り受けて一年かけて二部筆写するという作業のため、収入は途絶え、天井板をはがして薪代わりに燃やすという、貧乏生活に突入!
(本書文庫カバー裏の紹介文より)

深川辰巳芸者のおたみは、贔屓に呼ばれた宴席で幼馴染みの勝麟太郎(勝海舟)と再会します。やがて、蘭学を修業する麟太郎に惹かれていきます。

「どこに惚れたのさ」
「男気から」
「男気?」
「子どもの頃も助けてもらったし、世のため人のために、世間が嫌う蘭学をやっているところも、男気だと思ったんです」

(『おたみ海舟 恋仲』P.67より)

おたみは置屋の女将・お峰に、麟太郎への恋心を打ち明けます。その一方で、二つ年上で芸者の身に後ろめたさを覚えて、麟太郎からの求婚のことばを素直に受け入れられませんでした。

「俺は何がなんでも蘭学で身を立てる。そのためには、わかってくれる女房でなきゃ駄目なんだ。そんな女は今までに会ったことがない。おまえしかないんだ。だから」
 そこまで言われて、おたみは初めて、ありがたいと感じた。そして自分が麟太郎に惚れていると、はっきり自覚した。

(『おたみ海舟 恋仲』P.72より)

おたみは、お峰や麟太郎の父小吉の後押しもあって、麟太郎と祝言を上げて、溜池近くのあばら家で新生活を送ることになります。

旗本に嫁いだとはいえ、小普請で、家禄四十一石の貧乏世帯。麟太郎が一年がかりで「ヅーフ・ハルマ」の筆写の副業を始めたことで収入が途絶え、天井板をはがして薪代わりにして、生活を切り盛りする日々が続きます。

弘化三年(1846)に、おたみは長女「お夢」を産み、嘉永二年(1849)には、次女お孝を産みました。

嘉永五年には待望の長男小鹿(ころく)を産みました。その頃、麟太郎は佐久間象山の塾に通う一方で、西洋の大砲を造ることに取り組んでいました。

「まあ俺も、もう三十だ。今さら新しい分野に取り組むには遅い。けどは、おたみ」
 少し声を低めた。
「来年、大事件が起きるんだ」
「大事件?」

(『おたみ海舟 恋仲』P.153より)

大事件とは、ペリーの黒船来航のこと。
麟太郎は幕府で役目を得て、多忙な日々が始まります。一人で家を守るおたみにとっても、幼い三人の子どもたちを育て、姑お信の面倒をみるという、苦労の絶えない、激動の生活の始まりであります。

本書の面白さは、勝海舟(麟太郎)が表舞台で活躍をしていく陰で、夫を支え、家族を守っていくおたみのバイタリティーと愛情にあふれる姿がしっかりと描かれている点にあります。

★目次
一 なれそめ
二 貧乏旗本
三 黒船の引波
四 咸臨丸へ

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『おたみ海舟 恋仲』(植松三十里・小学館文庫)

植松三十里|時代小説リスト
植松三十里|うえまつみどり|時代小説・作家 静岡市出身。東京女子大学史学科卒。出版社勤務など経て、作家デビュー。 2002年、「まれびと奇談」で第9回「九州さが大衆文学賞」佳作入選。 2003年、『桑港にて』で第27回歴史文学賞受賞。 20...