鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おいらん若君 徳川竜之進 昇龍』(双葉文庫)を紹介します。
尾張徳川家七代藩主宗春のご落胤徳川竜之進は、その正体を晦ますために、吉原の妓楼・初音楼で女将美咲ら成瀬甲賀忍びに育てられて花魁・篝火として吉原随一の人気を誇るようになります。本書は、おいらん若君・竜之進が“見返りの柳剣”でこの世の悪を斬る、痛快伝奇時代小説シリーズの第五弾です。
花魁篝火に身をやつすという秘中の秘で追っ手から逃れてきた尾張のご落胤、徳川竜之進宗光。だが宿敵、広田左近が幻術で操る青龍に囚われ、ついに天空へと攫われてしまう。
このままでは若君が危ない――美咲や甲賀四鬼ら配下の忍びは竜之進奪還のための奇策を練り上げ、壮絶な死闘が幕を開ける。絶体絶命の修羅場を制するのは最凶の忍術か、天下無双の“見返り柳剣”か。大人気シリーズ、瞠目の最終巻。
(文庫カバー裏の紹介文より)
第四巻の『凶嵐』で、御土居下衆の広田左近の幻術に惑わされて、囚われの身となり、尾張に向かう船に乗せられた竜之進を奪還すべく、成瀬甲賀忍びが奇策を練って、浦賀の海で死闘に及びます……。
著者のもう一つシリーズ『鬼船の城塞』を想起させる、船での戦闘シーンの臨場感にハラハラドキドキさせられます。
(外八文字を踏むが如く)
ゆるやかに足をさばき、前後にかるく開いた。
踏み込むときに少しでも素早さを稼ぐために、左右の踵から力を抜く。(中略)
(振袖の金竜を見物に誇るが如く)
背に向けて刀を大きく傾け、左右の力を抜いて、ふわりと柄を握った。
竜之進の全身に、柳の如きしなやかな力がみなぎった。
(『おいらん若君 徳川竜之進 昇龍』P.214より)
花魁道中から会得した、竜之進の秘剣“見返り柳剣”は、最後の戦いでも発揮され、読みどころの一つとなっています。
さて、本書は、安永三年(1774)という時代設定で、尾張藩九代当主・徳川宗睦(むねちか)が登場します。
宗睦は、宗春失脚後、美濃高須藩三万石から尾張家に入った八代・宗勝の長子で、藩政改革を行い、藩校・明倫堂を創設して藩の教育普及に努め、中興の名君と呼ばれています。
目次
第一章 苦渋の時
第二章 巴丸
第三章 柳島の戦い
第四章 最後の道中
第五章 月下の死闘
第六章 昇龍
■Amazon.co.jp
『おいらん若君 徳川竜之進 昇龍』(鳴神響一・双葉文庫)(第5巻)
『おいらん若君 徳川竜之進 天命』(鳴神響一・双葉文庫)(第1巻)
『鬼船の城塞』(鳴神響一・時代小説文庫)