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“臆病者”の新米同心、実は勇気も度胸も満点

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ずくなし半左事件簿吉橋通夫さんの『ずくなし半左事件簿』(角川文庫)を読了しました。

信州松本藩六万石を舞台に、亡き父の跡を継いで、領内の村々を廻る郡方役所に出仕した、一人の若者を主人公にした、青春人情時代小説です。

主人公の一志半左(いつしはんざ)は、柔術と小太刀を得意としながらも、「太刀は重たいだけで、ものの役に立ちませんので」と、腰には小刀を差しているだけ。信州で、気力がない者、役立たず、臆病者などを指す、「ずくなし」と呼ばれています。

「無理、絶対に無理です。ひよっこのわたしに、できるはずがありません」「ひよっこだろうが、ほやほやだろうが、なり立てだろうが、国ざかいの見分ぐらい、へえーでもねえ」
「へえーでもあります!」

(『ずくなし半左事件簿』P.15より)

一緒に村々を廻る相棒で、先輩同心の桜井から、一人で国ざかいの見分をやるように言われて、足の裏がもぞもぞしてきて、「なんとか逃げ出したい」と思い、ずくなしぶりを発揮します。

加賀藩との国ざかいの山に見分に出ます。山人の娘アコを道案内に出かけた針ノ木峠で、加賀藩の奥山廻りの男たちと出くわして騒動を引き起こします……。

ずくなしと呼ばれながらも、いったん腹を決めると、勇気と度胸と冷静さを兼ね添えて大胆不敵になることができる、半左は、騒動を解決に導きます。

新米同心が問題にぶつかりながらも、周囲の助けを借りて乗り越えていく、その度ごとに成長していくところが読みどころです。

第二話の「隠れ芝居」では、北山村の若者たちが楽しみにしている、祭礼で上演される子ども踊りを禁止するよう、村に通達するように、郡奉行から命じられます。

藩内で勢力争いをしている派閥が「百姓や町人が芝居を見るのは贅沢の極み、ひたすら質素倹約につとめよ」という水野越前守忠邦に取り入って、村人たちが年に一度の楽しみを奪おうとします……。

危難をともに経験したアコをはじめ、半左をひよっこ扱いしながらも育てていく相棒の桜井、半左を許婚と思って慕う桜井の娘・花恵、両親を亡くした半左にとって唯一の肉親である祖母・千瀬、人使いが荒く半左に次々と仕事を与える郡奉行の名越湊之助など、多彩な人物が半左に関わっていきます。

父の死の謎、半左の恋の行方なども盛り込まれて、最後のページまで楽しめる作品です。

★書誌データ
『ずくなし半左事件簿』
著者:吉橋通夫
出版社:KADOKAWA・角川文庫
令和元年9月25日 初版発行
333ページ

カバーデザイン:原田郁麻
カラーイラスト:西のぼる

目次
第一話 国ざかい騒動
第二話 隠れ芝居
第三話 しのび荷
第四話 陰の戦い
第五話 人を想う

藩きっての臆病者が、郡方同心となって成長する青春時代小説
吉橋通夫(よしはしみちお)さんの人情青春時代小説、『ずくなし半左事件簿』(角川文庫)を入手しました。 2018年4月から2019年6月まで、「しんぶん赤旗」日曜版に連載された「ずくなし半左事件簿」を加筆修正のうえ、文庫化した作品です。 著者...

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『ずくなし半左事件簿』(吉橋通夫・角川文庫)