吉橋通夫(よしはしみちお)さんの人情青春時代小説、『ずくなし半左事件簿』(角川文庫)を入手しました。
2018年4月から2019年6月まで、「しんぶん赤旗」日曜版に連載された「ずくなし半左事件簿」を加筆修正のうえ、文庫化した作品です。
著者は、時代ものを題材に児童文学者としても長年活躍されてきました。
松本藩郡方見習い同心の一志半左は、土地の言葉で臆病者を指す「ずくなし」と呼ばれていた。一方、いったん腹を決めると大胆不敵になる豪胆さもあり、出仕早々に領地を巡る加賀藩との国境争いを解決に導く。以後、人使いの荒い郡奉行の名越湊之助から次々と無理難題を押し付けられる羽目に。隠れ芝居の強行、しのび荷騒動、そして父の仇との遭遇――。恋に友情に戦いに、若き郡方同心が成長する姿を描いた、人情青春時代小説!
(文庫カバー裏の紹介文より)
本書の主人公・一志半左(いつしはんざ)は、亡くなった父に代わり、郡方に出仕している、数えで十七歳になる見習いの郡方同心です。
出仕三日目にして、「国ざかいの見分」と「鉄砲改め」のために、先輩同心の桜井について安曇郡の野口村へ行くように命じられます。
加賀藩と松本藩との国境に高い山々がそびえていて、毎年雪がとけると、国ざかいの山を登ってきて、互いの藩内の木々を盗伐したり、川魚を密漁したりする者が出ます。そうした越境者を取り締まる、加賀藩の奥山廻りと松本藩の郡方同心の間でいざこざもが生じたりします。
「太刀は重たいだけで、ものの役に立ちませんので」
「そんな短い刀で身を守れるのか」
「危ないときは逃げるが勝ちですよ」
「さすが、ずくなし半兵衛の息子だけのことはあるな」(『ずくなし半左事件簿』P.7より)
本書のタイトルとなった「ずくなし」とは、信州で、気力がない者、役立たず、臆病者などのことを指します。半左の父・半兵衛は藩きっての剣の遣い手ながら、いくら勧めても御前試合に出るのを嫌がったために、「ずくなし」と言われていました。
「人がどう言おうと気にせずともよい。自分が信じた道をゆるぎなく歩いてさえいれば、ずくなしもまた楽しからずや」という父の教えを胸に、半左も「ずくなし」を継いでいました。
その父は、何者かに命を絶たれて四カ月前に世を去っています。
その死の謎も気になるところです。
信州の大自然のもと、若き同心の躍動と成長が楽しめる青春時代小説。読んで爽やかな気分に浸れます。
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『ずくなし半左事件簿』(吉橋通夫・角川文庫)