今村翔吾さんの文庫書き下ろし時代小説、『双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組』(祥伝社文庫)を紹介します。
本書は、新庄藩火消頭取・松永源吾と配下のぼろ鳶組など江戸火消たちが果敢に大火に立ち向かう、痛快エンターテインメント時代小説シリーズの第9弾です。
多くの死傷者を出した京都アニメーションの放火事件の後、あらためて火事が人をどん底に突き落とす最悪の災禍であることを再認識しました。この十日間、お気に入りの江戸の火消の物語を楽しんでいけないのではという思いにも駆られていました。
京の淀藩常火消・野条弾馬は、己が目を疑った。大火の折に生まれる激甚な災禍をもたらす炎の旋風“緋鼬(あかいたち)”が大坂の町を蹂躙していた。続発する緋鼬に、それを操る何者かの影を見た弾馬は、新庄藩火消頭取・松永源吾に協力を頼む。源吾は、天文学者でもある風読みの加持星十郎らを連れ大坂へ。しかし、ボロボロには、炎の怪物を眼前にすると大きな挫折を味わうことに……。
(本書カバー裏の紹介文より)
本書の舞台は大坂です。
豪商・大丸の当主・下村彦右衛門に請われて、西国随一の火消と呼び名の高い、京の淀藩常火消の野条弾馬(のじょうだんま)が大坂で頻発する、火炎旋風“緋鼬”を止めに行きます。
大坂にやってきたその日に弾馬は、緋鼬に遭遇します。
緋鼬が風読みをする下手人によって、生み出されたものであると推察した弾馬は、日本一の風読み、ぼろ鳶組の加持星十郎を呼び寄せようと、組頭の松永源吾に文を送ります。
一方、天文学者でもある星十郎は、公家の土御門に奪われた編暦の権を幕府に取り返すために、ぼろ鳶組から暇をとって京に上ろうと考えていました。
「いや、緋鼬は触れんでも死ぬ」
緋鼬の恐ろしさは周囲に炎を撒き散らすだけではない。その近くには喉が焼けるほどの熱波が渦巻き、近づいただけで息が止まって命を落とした者もいる。
「そのようなもの、どうやって止めるんです……」
「無理や」
「え……」
「緋鼬は止められへん。収まるまで逃げるしか方法はない」
(『双風神』P.93より)
大坂には、星十郎と源吾のほかに、極蜃舞という火消道具の遣い手で経験豊富な武蔵が同行します。
迎え撃つ大坂火消の組頭たちも皆、弾馬やぼろ鳶組に対抗できる曲者ぞろい、しかもお互いの仲は険悪です。
大坂の火消は大きく分けて、上町「雨組」、北船場「滝組」、南船場「波組」、西船場「川組」、天満「井組」の五つの組に分かれて、いずれも水にまつわる名前が付けられています。
「人に何を言われても関係ねぇ。火消は命を救う、町を守る。泥臭くてもそれだけでいい。喜ぶひとたちの顔はてめえらも知っているだろうが」
源吾は大坂の火消したちを前に言います。
そう、本書が心を揺すぶるのは、人の命(ときには犬や猫の命さえも)を大切にする火消たちが登場するからです。人の力では止められないような、最悪の災禍に対して、命を懸けて、火から町を守ろうとする男たちの人間ドラマが胸を熱くします。
ただ、身勝手な付け火による火事は、物語の中だけにしてほしいと切に願います。
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『双風神 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫)(第9弾)
『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(今村翔吾・祥伝社文庫)(第1弾)