千野隆司さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石 贋作の謀』(双葉文庫)を入手しました。
本書は、下総国高岡藩の世子(藩主の後継)・井上正紀を主人公にした文庫書き下ろし小説シリーズの第9弾です。
正紀は、尾張藩の附家老をつとめる、美濃今尾藩藩主竹腰勝起の次男に生まれて、勝起の弟(叔父にあたる)で高岡藩主の井上正国の養子となりました。
高岡藩は、島原の乱の下総国高岡村(現在の千葉県成田市高岡)に陣屋を構える一万石の小藩です。藩祖は、大目付として島原の乱の戦後処理やキリシタン宗門改役と功を認められた井上政重。
不祥事で減封されて一石でも欠けると、大名ではなくなるという崖っぷちで、財政的に行き詰った藩政を立て直していく、異色の痛快武家時代小説です。
藩主井上正国の奏者番就任を祝って、狩野派の掛軸が贈られてきた。ところが、目利きの和によれば、掛軸は真っ赤な偽物。贋作の絵師を捜していくと、とんでもない大物が、とんでもない悪巧みをしていることが明らかになった。放っておけば高岡藩とて、無傷で済まない。一万石を守るため、正紀は奮闘する!
(本書カバー裏の紹介文より)
高岡藩主の正国は、大坂勤番の役目を終えて江戸に戻り、奏者番(そうじゃばん)に就任します。奏者番は諸侯以下が将軍に謁見するときの取次と進物の披露を行い、上使に立つこともある、将軍や幕閣に接する重い役目です。
正国は江戸城中でやるべきことが多く、江戸藩邸や国許の差配は、引き続き正紀の双肩にかかることになりました。
天明八年、江戸では数年来の米不足により、米価高騰が続いていました。
老中松平信明の家臣と北町奉行所市中諸色調掛の与力は小名木川を大川に向かう不審な一艘の船を見かけます。船は海辺大工町の船着場に横付けされて、河岸沿いに建っている納屋に積み荷の米俵が運び込まれました。
「どこから仕入れ、どこの船問屋の船が運んだのか」
「百俵が陸奥守山藩から、二十俵が下総高岡藩からでございます。海産物は、常陸那珂湊からでございます」
(『贋作の謀』P.14より)
荷下ろしに立ち会った油堀河岸一色町の海産問屋の番頭に尋問すると、米俵は、利根川の高岡河岸から運んできたもので、米百二十俵と俵物の海産物だといいます。
昨年十二月に松平定信が出した廻米の触(ふれ)の折に、水戸藩の助力で米を江戸に運んだ守山藩に百俵もの囲米があったのか、不審が残りました。
鹿島灘で東回り航路の荷船が海賊船に襲われて、一昨年は千二百俵の米と極上の海産物が、昨年は三千俵の米が、奪われる事件が起こっていました。
一方、正国の奏者番就任祝いとして、三千石の旗本より、木挽町狩野派の加藤文麗(かとうぶんれい)の達磨の絵の掛軸を贈られました。狩野派の絵に心酔して自らも絵筆を握る正室の和の鑑定では贋作だといい、正紀に贋作の作者を調べてほしいと依頼されます。
高岡藩を巻き込んだ事件は調べを進めていくと、米を使ったマネーロンダリング(資金洗浄)の様相を呈していきます。多彩な人物が登場し、物語は複雑に絡み合い、大藩の影も……。
本書は、2カ月連続刊行の前編にあたり、続きは2019年8月刊行の『おれは一万石 無人の稲田(仮題)』に続きます。
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『おれは一万石 贋作の謀』(千野隆司・双葉文庫)(第9作)
『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)(第1作)