2019年7月11日から7月20日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2019年7月の新刊 中」を掲載しました。
今回は講談社文庫から刊行される、朝井まかてさんの『福袋』をとり上げます。
本書は、朝井まかてさんの初の時代小説短編集です。大都会、江戸で暮らす庶民の日常の一こまを描いた、人情話8編を収録しています。
1編目の「ぞっこん」では、「筆」が語り手になる。看板書きだったあるじと「筆」との出会いや情の深まりを、緩急をつけた落語調の文体で読ませる。2編目の「千両役者」は、ぱっとしない歌舞伎役者に千載一遇のチャンスが巡ってくる。もう後がない役者の焦りと、破滅と背中合わせの功名心が生々しく伝わる。3編目の「晴れ湯」は、湯屋(銭湯)を営む家に生まれた少女が主人公。客の戯作者や長屋のおかみさんたちのふるまい、子どもなりの家業への意気込み、江戸で恐れられた火事……。少女は大小のドラマに遭遇しながら、道楽者の父と働きづめの母という夫婦を、一つの男女の形として受け入れていく。続いて、自分のやりたいことを見つけた古着屋の少女が巻き込まれた揉め事に、愉快なオチを付けた4編目「莫連あやめ」。離縁された大喰らいの姉と、彼女を馬鹿にしながら利用する弟の、それぞれの顛末を活写した5編目「福袋」。さらに、女絵師が描いた枕絵が、昔の恋を照らす6編目「暮れ花火」。堅物の家主が、神田祭のお祭掛になってしまった7編目「後の祭」。その日暮らしの遊び人、卯吉と寅次の二人が助けた男からお礼にもらった品で商売を始める8編目「ひってん」。と、まさに福袋のように、何が入っているかわからないワクワク感とお得感。直木賞作家・朝井まかて初の短編集にして、第11回舟橋聖一文学賞を受賞した傑作!(Amazonの内容紹介より)
笑いと涙にあふれ、オチまで楽しめる、古典落語のような物語の数々。歌舞伎役者、湯屋、古着屋、絵師、神田祭など、江戸の暮らしと情緒に触れられる、福袋のようにお得で楽しめる1冊です。
舟橋聖一文学賞は、彦根市が2007年に彦根城築城400年を記念して、1年間に新しく単行本として刊行されたすぐれた小説が対象に創設した文学賞です。
舟橋聖一(ふなはしせいいち)さんは、大老井伊直弼を描いた時代小説『花の生涯』の著者として知られ、彦根市の名誉市民の称号を授与されています。
同賞は時代小説作品が多く受賞し、ほかに冲方丁さんの『天地明察』(第4回)、木下昌輝さんの『宇喜多の捨て嫁』(第9回)、飯嶋和一さんの『星夜航行』(第12回)があります。
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『福袋』(朝井まかて・講談社文庫)
『新装版 花の生涯 上』(舟橋聖一・祥伝社文庫)