2019年6月15日付朝日新聞朝刊の別刷の連載記事「サザエさんを探して」で、捕物帖がテーマになっていて興味深く読みました。
寝転んで捕物帳(捕物小説)を読んでいるマスオさんが物語に夢中になってしまうシーンが描かれています。作品が描かれた当時(1955年11月)は、日常生活においてごく当たり前の光景だったことと思います。
記事では、捕物小説の黄金時代の作品を復刻を精力的に取り組んでいる「捕物出版」の代表の長瀬博之さんの出版活動も紹介されていました。
捕物出版で現在手掛けていることは、城昌幸さんの捕物小説の「若さま侍捕物手帖」の全集化です。長編・中編を含めて277編を、執筆年代順に収録して、毎月1巻ずつ刊行して完結させるという壮大な企画です。
『若さま侍捕物手帖 第三巻 双色渦紋(ふたいろうずもん)』を紹介しましょう。
存在が確認できている長編・中編を含む277編を、執筆年代順に網羅する初の事実上の全集化。毎月1冊ずつ刊行予定。
第3巻には昭和23年から24年にかけて執筆された長編を含む9編を収録。
埼玉新聞に連載された若さま侍捕物手帖の初の長編の双色渦紋と、二本傘の秘密、土牢人、きき酒道中、十六剣通し、お手討ち文、人化け狸、からくり蝋燭、嘘から出た真の短編8編を収録している。
このうち、二本傘の秘密、土牢人の2編は、昭和25年発行の大衆読物社版以来の単行本収録で、きき酒道中、嘘から出た真は初出誌以来70年振りの刊行となる。
(Amazonの紹介文より)
表題作の「双色渦紋」は、シリーズ初の長編。
主人が二日前に亡くなったばかりの質屋布袋屋の三つある土蔵の一つに、宗十郎頭巾に着流しの侍風の盗人が入りますが、番頭の一人を峰打ちにしただけで、何も盗みませんでした。押し込み侍の正体は? 捜していたものは何なのか?
一方、旗本山岡帯刀の家では、三代前の先祖が時の将軍より拝領した家宝・呉須の大皿を金策に困って布袋屋に質入れして、百両を借りていました。その山岡家に将軍家から呉須の大皿を一見したいという通知があって、一大事に……。
若さまは、年令の頃は三十四五か、さして美男というほどではないが、男らしい凛とした眼鼻立ちだ。唯、特長というべき点は如何にも気品のあることだ。並みの御家人、旗本など及びも付かぬ高い育ちの良さのあることだ。
(中略)
この若さまに、不思議な才能があったそれは捕物にかけての腕前である。これは素晴らしく天才的だった。適確な判断、妥当な推理、中でも直感の鋭さにかけて天下一品である。
(『若さま侍捕物手帖 第三巻 双色渦紋』P.8より)
若さま侍のキャラクターのユニークさに魅せられ、巧みなプロットと、謎解きの楽しさにはまって、マスオさんのように物語を一気読みできました。
「若さま侍捕物手帖」は埋もれた、面白い捕物帳の一つであり、「半七捕物帳」や「銭形平次捕物控」のように、長く付き合っていきたい作品シリーズです。
●書誌データ
『若さま侍捕物手帖 第三巻 双色渦紋』
著者:城昌幸
発行:捕物出版
ISBN:978-4-909692-22-1
オンデマンド版初版発行:2019年5月1日
ペーパーバック
290ページ
底本:「江戸ざくら」(桃源社 昭和33年1月10日5版)、「金四郎桜」(桃源社 昭和33年7月10日発行)
目次
双色渦紋
二本傘の秘密
土牢人
きき酒道中
十六剣通し
お手討ち文
人化け狸
からくり蠟燭
嘘から出た真
■Amazon.co.jp
『若さま侍捕物手帖 第一巻 舞扇の謎』(城昌幸・捕物出版)
『若さま侍捕物手帖 第二巻 五月雨ごろし)
『若さま侍捕物手帖 第三巻 双色渦紋』(城昌幸・捕物出版)
『若さま侍捕物手帖 第四巻 悪鬼羅刹』(城昌幸・捕物出版)