2019年5月21日から5月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2019年5月の新刊 下」を掲載しました。
今回は中公文庫から刊行される、矢野隆さんの平安時代小説、『鬼神』をとり上げてみました。
著者の矢野隆さんは、室町末期の傭兵集団を描いた2008年『蛇衆』にて第21回小説すばる新人賞を受賞し、『東国の覇王 将門』『生きる故』『我が名は秀秋』『山よ奔れ』など、骨太で疾走感あふれる、エンターテインメント時代小説を数多く発表しています。
もっとブレイクしてもおかしくない、実力派の時代小説家です。
山中で育ち、熊をも仕留める大力を持つ坂田公時。彼は武門の頭領・源頼光に従い、武人として都へ上る。身分の境に塗れた都に戸惑う公時は、夜な夜な現れる鬼の噂を耳にする。一方、神の棲まう山・大江山では、人々がしきたりに囚われず自由に暮らしていた。しかし、山を訪れた不審な男を追い払った日から、食糧たる獣たちが姿を消す。頭目の朱天は、民たちの命を守るため、都で盗みを働く決断を下す。公時と朱天。都と山。人と鬼――。交わるはずのない二つの思いが交錯するとき、歴史を揺るがす戦が巻き起こる! 平安史に突如現れる「酒呑童子伝説」の謎。その実像は、生きる権利をかけた人と人との戦争であった。
(Amazonの紹介文より)
源頼光の四天王の一人、坂田公時と、大江山の鬼を描いた作品というと、今村翔吾さんの平安伝奇時代小説の傑作『童の神』が想起されます。
頼光の四天王と酒呑童子、人と鬼、都と山、幾重にも重なる対立の構図。古くて新しい題材に惹かれます。
戦国時代を題材にした作品が多い著者が、史料の多くない「酒呑童子」伝説をどのような伝奇時代小説に仕上げているか興味津々です。『童の神』と読み比べてみたいと思います。
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『鬼神』(矢野隆・中公文庫)