書籍出版やWebサイト運営を手掛けるアルファポリスが主催する「アルファポリス第4回歴史・時代小説大賞」の大賞受賞作『居残り方治、憂き世笛(いのこりほうじ、うきよぶえ)』を紹介します。
本書は、笛が巧みで剣の腕が立つことから遊郭の用心棒兼雑用係となった方治が、“犬笛”の剣で、悪を斬る痛快チャンバラ小説です。著者はこの作品で出版デビューした鵜狩三善(うかりみつよし)さん。
とある藩の遊郭、篠田屋には遊興費を払えずに居残りとして住み込み働きをする浪人がいる。その男、方治(ほうじ)は来歴不明ながら笛の巧みさや腕が立つことを買われ、見世の名物となっていた。
そんな彼はある日、他藩の武士に追われている男装の少女を救う。彼女――菖蒲(あやめ)は藩を裏で牛耳る大悪党を打倒しようとする一族の娘で、篠田屋の楼主を頼ろうとしていたのだった。楼主から娘を任された方治は、彼女を狙う外道達と死闘を繰り広げることとなり――。
主人公の方治は、相沢藩(架空の藩)にある遊郭、篠田屋で遊びの金が支払えずに、妓楼に留め置かれた“居残り”です。竹笛が得意なことから笛鳴らしの方治として遊里で知れわたっています。
方治は、剣の腕が立つことから、楼主の三十日衛門(みそかえもん)から、表沙汰にできない人斬りを・請け負っていました。
そんな方治がある日、隣の北里藩の武士に追われている男装の少女・菖蒲を助け、篠田屋に連れていきます。
子供のころから自身に託されてきた仇討ちの旅を放り投げて、自暴自棄な生活の末に、遊里の用心棒に零落した方治が、菖蒲の用心棒となり、彼女の快活で開けっぴろげな性質に触れることで少しずつ変わっていきます。
菖蒲は、北里藩を裏で牛耳る大悪党の王子屋徳次郎と徳次郎が抱える外道な集団・椿組に父を殺されながらも、王子屋の悪行の証拠をもって、近々江戸から戻る藩主へ訴え出るつもりです。
方治と菖蒲の前に、騙し、殺し、盗み、犯しといった外道の限りを尽くす、椿組の頭領格の四人が現れます。
火術の得意な太郎坊、変装の名人でどんな者にも成りすまして暗殺をする長田右近、双口縄という武器の達人である一厘、そして「村時雨」の異名をもつ剣の遣い手で首領の仁右衛門です。
本書の面白さは、方治と椿組の四天王との闘いにあります。凄腕の外道達を相手に手に汗握るチャンバラシーンの連続に興奮します。
「幸不幸は、比較じゃないと思う。自分の感じる大きさが全部で、簡単に重くも軽くもなる。だから傍目には小さな不幸が、人を押し潰したりする。でもこの場合、押し潰された人こそ正しいんだ。だってその人が感じた重みは、本当に耐えきれないものだったんだから」
(『居残り方治、憂き世笛』P.252 より)
篠田屋にやってきたばかりのときに、三千世界の全てが敵のような気さえしたと言っていた菖蒲が、物語の終盤で方治に言った言葉。
方治と菖蒲、遊女・おこう、遣手(やりて)志乃らとの会話から人と人との絆が築かれていく様が描かれていて読み味を良くしています。
「アルファポリス歴史・時代小説大賞」は、Web上に公開されている歴史・時代小説が対象に、読者投票・アクセス数などによりポイントを集計し、アルファポリス編集部が選考する大賞やポイント最上位作の読者賞などが選定されるという、いまどきのエンターテインメント文学賞です。
2019年4月末まで「第5回歴史・時代小説大賞」エントリー募集中で、5月からの1カ月間エントリー作品を読んで、投票もできるようです。
●書誌データ
『居残り方治、憂き世笛』
著者:鵜狩三善
発行:アルファポリス・アルファポリス文庫
発売:星雲社
ISBN:978-4-434-25732-2
初版発行:2019年4月3日
Illustration:永井秀樹
Design Work:AFTERGLOW
312ページ
目次
徒花菖蒲
太郎坊火車
右近化粧面
一厘双口縄
仁右衛門村時雨
犬笛方治
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『居残り方治、憂き世笛』(鵜狩三善・アルファポリス文庫)